50代起業家のリアル:たった10秒の業務改善、価格設定と価値の伝え方で悩む
CloudLab代表の岩森です。
私が50代で起業して以来、日々さまざまな課題に直面していますが、特に頭を悩ませるのが「価格設定」と「価値の伝え方」です。今回は、ごく小さな業務改善の事例を通して、起業初期のリアルな葛藤と、そこから見えてきた学びについてお話ししたいと思います。
たった10秒の作業が、毎日となると大きな負担に
先日、ある士業事務所の先生からこんなお話を伺いました。
日々の業務で、紙の書類をPDFにスキャンし、そのPDFに管理番号や案件名を付け、案件ごとのフォルダに保存するという作業があるそうです。
一つ一つの作業は、慣れれば10秒ほどで終わるでしょう。カップラーメンができるまでの間にメールを数通編集できるくらいの時間です。しかし、これが毎日、何枚も、何十枚もとなると話は変わってきます。
- 案件ごとにファイル名やフォルダを間違えないよう、細心の注意を払う。
- 一日に何度も中断され、集中力が途切れる。
- もし間違えてしまうと、後で書類が見つからなくなるリスクがある。
たった10秒の作業でも、頭の中ではかなりの気を使っている。小さなことですが、毎日積み重なると、精神的な負担は決して小さくありません。本来の専門業務に集中したい先生方にとって、これは地味に大きなストレスになっていると感じました。
「これ、自動化できますよ」――解決策が見えた瞬間
この話を聞いて、私はすぐに「これなら自動化できる」と思いました。
スキャンされたPDFを読み取り、ルールに従ってファイル名を自動で変更し、決まったフォルダに振り分ける。こうした小さなツールであれば、プログラミングを使えばすぐに作れます。
「これで先生方の負担を軽減できる!」
そう思ったのも束の間、すぐに次の問題が頭をよぎりました。
「このツール、いくらで売ればいいんだろう?」
ここからが、起業家としてのリアルな悩みどころです。
作る側の工数と、使う側の感覚のギャップ
ツール開発の工数を考えれば、設計、開発、テスト、導入、説明、そして不具合対応まで含めると、それなりの時間がかかります。私の経験とエンジニアとしての時間単価から逆算すると、最低でも8万円くらいはいただきたい。AIに壁打ちで相談しても、「そのくらいの価格は妥当です」と強気で言ってきます。
しかし、お客様からするとどうでしょう?
「PDFの名前を変えて、フォルダに入れるだけでしょう?」
そう言われてしまうと、作り手側の工数から弾き出した価格は、高く感じられてしまうかもしれません。ここにはどうしてもギャップが生まれてしまいます。
私たち開発側からすれば、単なるファイル移動ではありません。現場のルールを丁寧にヒアリングし、間違いが起こらないようシステムを設計し、お客様のパソコンで使えるように導入し、万が一の際にはサポートする。そこまで含めて「ちゃんとした仕事」です。
でも、お客様から見えるのは、たった10秒の作業が自動化されるという結果だけ。この見え方の違いが、価格設定を難しくするのです。
起業初期の葛藤:実績と利益のバランス
私自身、50代で起業したばかりで、実績を積みたいという気持ちが強くあります。だからこそ、「何としても使っていただきたい」という思いが先行しがちです。
一方で、安くしすぎると、今度は自分が苦しくなります。
「無料でやります」と言えば、きっと相手は喜んでくれるでしょう。しかし、それを続けていては、会社として成り立ちません。親切心だけでボランティアになってしまっては、事業を継続することはできないのです。
会社員時代は、自分が作った便利なツールが社内で使われ、「便利だね」と言ってもらえれば、それだけで嬉しかった。給料は会社から出ていたので、それで十分でした。
しかし、独立するとそうはいきません。「便利ですね、ありがとうございます」の後に、「ではおいくらですか?」という現実が待っています。この最後の問いが、起業家にとってはとてつもなく重いのです。
- 「高いと思われないか?」
- 「関係が悪くならないか?」
- 「こんな簡単なものにお金を取るのか、と思われないか?」
そんな不安が頭を巡り、なかなか値段を言う勇気が持てずにいました。
価値を「どう変わるか」で伝え、価格設定の選択肢を増やす
この悩みの中で、一つの気づきがありました。価格の付け方は一つではない、ということです。
例えば、
- 最初は「お試し価格」で提供する。
- 1週間無料で使ってもらい、効果を実感してもらう。
- 導入費用は抑えめにして、月額利用料をいただくサブスクリプションモデルにする。
- 同じような課題を持つ他の事務所にも展開できるよう、汎用的な「商品」として育てる。
一回きりの仕事として考えるのではなく、商品を育てる視点を持つことで、一社あたりの価格を下げつつも、事業として成り立つ可能性が広がります。
そして、最も重要なのは、このツールの価値を「単に10秒削ること」として終わらせないことです。
- 書類を探す時間が減る。
- ファイル名やフォルダのミスがなくなる。
- 小さな事務作業による精神的な負担が減る。
- 事務作業のストレスから解放され、本来やるべき専門業務に集中できる。
ここまで含めて初めて、このツールの真の価値が生まれます。
この価値を、相手に伝わる言葉で言語化することが不可欠です。
例えば、「PDFを自動で移動します」だけでは弱い。
「書類整理の手間を減らし、案件管理を確実にします」と言えば、少し伝わり方が変わるでしょう。
さらに、「毎日の小さな事務作業を減らし、先生が本来の専門業務に集中できるようになります」と伝えれば、お客様は「自分の仕事がどう変わるか」を具体的にイメージしやすくなります。
つまり、「何ができますか」ではなく、「どう変わりますか」を語ること。これが、私のサービスを、そしてその価値を伝える上で、今最も意識していることです。
小さな業務改善がもたらす大きな変化
たった10秒の手作業でも、それが毎日積み重なると、年間では膨大な時間になります。ミスの不安や、集中の中断によるストレスは、計り知れません。こうした「あまり価値のない作業」にリソースを割かれることは、本来の生産性を大きく阻害します。
この小さな負担を減らすことが、立派な仕事であり、お客様にとって大きな価値になる。その価値をどう言葉にし、どう納得していただくか。これが、今の私にとって最大の課題であり、営業の奥深さを痛感する日々です。
起業してからの私は、小さなツール開発や価格設定で悩み、価値の伝え方で悩み、実績が欲しい一方で安売りはしたくない、でも高いと言われるのは怖い、という間で常に揺れ動いています。
しかし、この葛藤こそが、お客様の課題に真摯に向き合い、最適な解決策を提供しようとする原動力になっていると信じています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。日々の業務における小さな「困った」から、事業全体のDX推進まで、お気軽にご相談ください。
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