先日、地元で長く事業をされているベテラン社長とお話しする機会がありました。
私自身、50代で起業してCloudLabという会社を立ち上げ、中小企業向けのIT・AI活用支援を行っています。今後どのような商品を作っていけばいいのか、どうやって仕事を増やしていけばいいのかを、その社長に相談していたときのことです。
社長からは「顔認識アプリはどうか」「社内の評価システムはどうか」「工場の工程管理システムはどうか」など、次々とアイデアを出していただきました。
会話が弾む中で、私はいつもの癖で「最近のAIを使えばこんなことができます」「いまのAIならここまで作れます」と説明していました。すると、社長から不意にこんな言葉が返ってきたのです。
「岩森さん、AIって言い過ぎたら岩森さんの個性が消えるで」
最初は、一瞬どういう意味かわかりませんでした。私はAIを活用したビジネスをやろうとしていますし、いま最も注目されている話題でもあります。AIの可能性をアピールするのは当然だと思っていたからです。
しかし、社長の言葉をじっくり噛み締めるうちに、自分の間違いにハッと気づかされました。
ChatGPTの「営業マン」になっていなかったか
いまや、ChatGPTやGemini、Claudeといった生成AIを使う人は珍しくありません。AIを使って文章を作ったり、資料やプログラムを作成したり、画像や動画を生成したりすることは、これからますます当たり前になっていきます。
そんな時代に「うちはAIが使えます」「AIでシステムを作れます」と言ったところで、何の差別化にもならないのです。
極端に言えば、私は「CloudLab」という自分の会社の価値を伝える営業ではなく、ChatGPTやGeminiという他社の道具の営業をしていたのかもしれません。
「このAIはこんなに凄いです」「最新の技術を使っています」と熱弁しても、お客さんからすれば「で、あなたは私に何をしてくれるの?」という話になります。お客さんは別に、AIの詳しい技術解説を聞きたいわけではないのです。
包丁を売る営業マンの例え
この話は、包丁を売る営業マンに似ています。
「この包丁は最新の技術で作られています」「素材が非常に硬くて切れ味が抜群です」と一生懸命に説明する。もちろん、道具としてのスペックを伝えることも時には必要でしょう。
しかし、お客さんが本当に知りたいのは「この包丁を使ったら、毎日の料理がどれだけ楽になるか」ということです。
しかも、どんなに素晴らしい包丁であっても、使う人によって出来上がる料理は変わります。AIもまったく同じです。同じChatGPTを使っていたとしても、誰が何の目的でどう使うかによって、出てくる成果はまったく違ってきます。
そう考えてみると、私が売るべきなのは「AIそのもの」ではありませんでした。
私には、会社員時代に約20年間にわたってシステム企画やデータ活用、業務改善に携わってきた経験があります。現場に行って社長や社員の方から話を聞き、業務の流れを見てどこに無駄があるのかを考え、仕組みに落とし込んでいく力。そうした人間としての経験やノウハウとAIを組み合わせた「結果」こそを売らなければならなかったのです。
AIは表に出す商品ではなく、裏側で使い倒すための「道具」にすぎません。
伝える順番を逆にする
これまでの私は、伝える順番が完全に逆でした。
- × これまで:「AIを使えばこんなことができます。御社でも使いませんか?」
- ○ これから:「御社の業務ではここに時間がかかっていますよね。この作業を減らしましょう。そのために裏側でAIを使います。」
主役はAIではなく、お客さんの仕事であり、抱えている課題です。
「面倒な作業がどう楽になるのか」「売上を伸ばすためにどう役立つのか」「ミスがどう減るのか」。お客さんが望んでいる変化を提示し、その実現手段として裏でAIを徹底的に活用する。この順番を間違えてはいけないと痛感しました。
正直であることと、頼りなく見えることは違う
もうひとつ、今回の出来事で深く考えさせられたことがあります。
私はまだ成功した経営者ではありません。日々の泥臭い試行錯誤や、失敗した話、売上に苦しんでいるリアルな状況も含めて発信しています。だからこそ「この方法で皆さんも成功できます」などと偉そうなことは言えません。
現場でうまくいかなかったことや、お客さんからいただいた厳しい言葉を隠さず見せることは自分なりの誠実さだと思っています。
しかし、正直に話すことと、頼りなく見えることは違います。
対価としてお金をいただく以上、「この人なら最後まで責任を持って仕事をやり遂げてくれる」とお客さんに思ってもらう必要があります。泥臭くても逃げずに改善を続けること、困った時にきっちり対応すること、分からないことを知ったかぶりしないこと。
AIがどれほど進化して世の中に普及しても、最終的にお客さんから選ばれる理由は、そうした「人間としての責任感や信用」なのだと思います。
道具の話ばかりしていないか
自社の商品やサービスを説明するとき、ついつい使っている「道具」や「手法」の話ばかりになっていないでしょうか。お客さんが本当に買いたいのは、その道具そのものではなく、道具を使った先にある「変化」や「安心感」です。
AIを使う会社が増えれば増えるほど、人間の経験や判断、そして信用の価値は、むしろ高まっていくはずです。私自身、もう一度原点に立ち返り、自社ならではの価値を磨いていきたいと思います。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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