先日、地方の製造業を営むお客様へ、工場の進捗状況をリアルタイムで見える化する業務システムの提案を行いました。
商談自体は非常に良い雰囲気で進み、口頭で進める意向をいただくことができました。ただ、私がその日にお願いしたのは「システム構築の本契約」ではありません。
まずは「顧問契約」という形で小規模にスタートし、実際の現場調査やデータの検証を行いながら、本当に作るべきものを確定させるという段階的な提案です。
なぜ、せっかくの機会に大型のシステム開発契約をいきなり結ばなかったのか。そこには、50代で独立した私が過去の失敗から学んだ、商談と事業の設計における重要な理由があります。
工場の課題——「情報がない」のではなく「分散している」
今回ご相談をいただいたお客様は、事務所と製造現場が別フロアに分かれている工場を経営されています。
ヒアリングを進めていくと、生産予定や進捗、作業実績といった情報があちこちに分散していることがわかりました。
既存の生産管理システムはあるものの、担当者がそこからデータをExcelに出力し、予定表に組み直して紙に印刷し、壁のホワイトボードに貼り出す。一方、現場の作業実績は紙の日報に記入され、事務所に届くのは翌日……という運用になっていたのです。
つまり「今、工場で何が起きているか」を知るためには、事務所から1階の現場まで直接見に行くしかありませんでした。
現場に情報がないわけではありません。紙にもある、ホワイトボードにもある、システムにもある、作業員の頭の中にもある。問題は「必要なときに、1箇所に集まっていないこと」にありました。
目的はシステムを「作ること」ではない
そこで私は、既存の生産管理システムをすべて捨てて入れ替えるのではなく、その外側に「現場と事務所をつなぐ1枚の層」を追加するような仕組みを考えました。
現場ではスマートフォンやタブレットで「着手」「完了」のボタンを押すだけ。事務所ではそのデータがタイムライン形式で画面に反映され、設備ごとの進捗がリアルタイムでわかるという構想です。
ここで最も重要なのは、「システムを作ること自体を目的にしない」ということです。
本当の目的は、現場の作業員と経営者が同じデータを見ながら、「今日の優先順位」をその場の情報で正しく判断できる状態を作ることです。
実は、初回のヒアリングではそれほど手応えを得られませんでした。そこで次回までの間に電話で改めてお話を伺い、本当の課題を再確認したうえで、スマホの画面イメージが伝わるような簡単な試作品(モックアプリ)を作って見せました。紙芝居のように画面の流れを確認していただくことで、具体的な議論ができるようになったのです。
なぜ、本契約をその場で求めなかったのか?
相手の予算感も事前に確認しており、条件面での枠組みは整っていました。それでも私がシステム構築の本契約をその場で求めなかったのは、まだ確認すべき技術的・運用的な懸念が残っていたからです。
- 既存システムから想定通りのデータをスムーズに取り出せるか
- 工場の必要な場所までWi-Fiの電波が届いているか
- 現場の作業員にとって負担のない入力方法になっているか
- 経営者が見たい情報と、現場が入力できるデータが一致しているか
これらを確かめずに見切り発車で開発を始めてしまうと、完成後に「現場で使われないシステム」になってしまうリスクが非常に高くなります。
だからこそ、いきなり高額な開発契約を結ぶのではなく、まずは「顧問契約」という小さな形を提案しました。
現場のミーティングに参加する、実際のデータや通信環境を確認する、試作品を現場の人に触ってもらって意見を聞く——。そうした確認と設計を最初に行い、そのうえで本番の開発に進むかどうかを判断していただくステップを作ったのです。
「無料で試作」か「高額契約」かの二択をやめる
私は起業した当初、手応えを得たいがために無料で試作品を作り続けたり、長時間の相談に乗り続けたりして、結局仕事にならなかったという失敗を何度も経験しました。
一方で、まだ作るべきものが明確になっていない段階で、何百万円もする大型システム契約を迫るのも間違っています。
「無料で走り続けるか」「いきなり大型契約を迫るか」。
提案はこの二択である必要はありません。「小さく、しかし最初から有料で始める」という選択肢があって良いはずです。
今回の顧問契約は、検討をダラダラと待つ期間ではなく、失敗を防ぐための「有償の調査・設計期間」です。お客様にとっても過度なリスクを負わずに進められる、現実的な選択肢となります。
商談の最後に、お客様から「現場のミーティングにぜひ来てください。短い時間でもいいので、現場の人に画面を見せて意見を聞いてほしい」と言っていただけました。
これは「単に成果物を納品してほしい」ということではなく、「現場に入って一緒に作り上げてほしい」という意思のあらわれだと受け止めています。地方で現場伴走型の支援を行う私にとって、最も価値を発揮できる部分です。
営業とは、その日に必要な「決断を1つに絞る」こと
今回の商談を通じて改めて感じたのは、営業のゴールは「その場で最終契約を取ることだけではない」ということです。
- その日に必要な決断を、1つに絞る
- 次の段階で何を確認・検証するのかを明確にする
- 無料ではなく、有償で次のステップへ進む
無理に1回で大きな契約を決めようとするよりも、ステップを分けて確実に信頼と要件を積み上げていく方が、お客様にとっても支援者にとっても結果的に良い成果につながります。
焦って大きな契約を追いかけるのではなく、目の前の課題に対して「今、必要な一番小さな一歩」を提案すること。これからもその姿勢を大切に、事業と向き合っていきたいと思います。
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