1回目の商談で手応えがなくても諦めない。違和感を辿って見えた製造業社長の「本当の困りごと」
自社で案件を獲得し、事業を動かしていく中で、商談の難しさを痛感することが多々あります。特に初回のヒアリングで相手の反応が薄いと、「今回はご縁がなかったのかな」とあっさり手を引いてしまいがちです。
しかし最近、一度は手応えのなかった商談に対し、思い切ってもう一度電話をかけたことで、事態が大きく前進した経験がありました。今回はそのエピソードと、営業や商談における「決めつけない姿勢」の大切さについて書きたいと思います。
はじめに:一度は諦めかけた1回目のヒアリング
きっかけは、地域の企業交流会でした。たまたま席が近くになったある製造業の社長さんと名刺を交換し、お互いの事業について雑談を交わしました。
「うちもDXとか進めなあかんなと思ってて。一度、話を聞きに来てくれへんか」
社長の方からそう声をかけていただき、後日、意気揚々と会社を訪問して1回目のヒアリングを行いました。
ところが、実際に伺ってみると会話があまり弾みません。具体的なシステムの入れ替え予定を聞いても明確な答えが返ってこず、現状困っている課題もあまり出てこない。新しくDX施策を始めようという気配も薄く見えました。
「声をかけていただいたけれど、実際はそれほど困っておられないのかもしれない。うちが提供できる仕事には繋がらないだろうな」
そう感じた私は、その場を辞して一旦引き下がり、この案件からは手を引こうと考えました。
なぜ会話が噛み合わなかったのか?残った違和感
しかし、事務所に戻ってからどうも喉に引っかかったトゲのような違和感が消えませんでした。
「そもそも、向こうから『相談に乗ってほしい』と声をかけてくださったはずなのに、なぜ課題が出てこなかったのだろう?」
交流会でお話ししたとき、社長は確かにシステムのことで悩んでいる様子でした。それなのに初回のヒアリングでは話が平行線のまま終わってしまった。この違和感を残したまま「ありがとうございました」と終わらせてしまうのは、どうしても不完全燃焼に思えたのです。このまま終わったら絶対に後悔する。そう思い、私はもう一度その社長へ電話をかけることにしました。
もう一度電話をかけて見えてきた「本当の課題」
電話口で「先日お伺いした件ですが、以前交流会でおっしゃっていた課題というのは、こういった内容のことでしたでしょうか?」と、私なりに整理した内容を尋ねてみました。
すると、社長からこんな答えが返ってきたのです。
「いや、その話じゃないんだよ」
そこから詳しく話を聞いていくうちに、相手の本当の困りごとが次々と浮かび上がってきました。
- 主要なパッケージソフトは既に導入されている
- しかし、各ソフト同士をつなぐ部分や現場の進捗管理が「紙の作業計画書・報告書」というアナログな運用のままになっている
- 現場の作業進捗がリアルタイムで可視化されず、翌日に提出される紙を集計して初めて状況がわかる状態だった
- パッケージソフトにも進捗管理機能はあるが、使っているバージョンが古く、バージョンアップには何百万円もの費用がかかる
- 数年後に予定されているサーバー更新までは大型投資が難しく、現場に負担をかけたまま耐えるしかないと思っていた
つまり、1回目の商談で話が噛み合わなかったのは、「社長が困っていなかったから」ではなく、「私が想定していたシステムの提案と、社長が今すぐ解決したい現場のアナログ課題がズレていたから」だったのです。
高額なパッケージソフトを入れ替えるのではなく、今動いている環境の隙間を埋め、紙で行っている進捗報告をデジタル化できれば、課題は解決します。事情が分かれば、こちらとしても具体的な解決策を提示できます。
試作品(プロトタイプ)で見せた解決への道筋
電話でヒアリングした内容をもとに、私は現場の作業員がスマホやタブレットで簡単に進捗を入力でき、事務所の画面で一覧化できる簡易的な試作品(プロトタイプ)を突貫で作成しました。
そして2回目、3回目の訪問でその画面を社長にお見せしたところ、反応が一変しました。
「あ、こんな風に入力できるならすごく便利だな」
目の前で動く試作品を見たことで、社長の中でも具体的な運用のイメージが湧いたようでした。「これなら現場も使える」「こんな機能も追加できるか?」「このデータも一緒に管理したい」と、それまでが嘘のように会話が一気に弾み、具体的な提案のフェーズへと進むことができました。
最初のリアクションで決めつけない
百戦錬磨の営業マンから見れば、私のしたことなど「しつこさ」のうちに入らないレベルかもしれません。しかし、もし最初のリアクションだけで「脈なし」と勝手に決めつけ、再度の連絡をしなかったら、この案件は間違いなく立ち消えになっていました。
商談の場で相手が見せる反応には、さまざまな背景や理由があります。こちらの準備した仮説が外れていただけかもしれないし、相手がうまく言語化できていないだけかもしれません。
過度な押し売りをする必要はありませんが、違和感を持ったときに「諦める前にもう一度真意を聞いてみる」という粘り強さは、事業を進める上で非常に大切な姿勢だと改めて実感しました。
相手の事情を勝手に決めつけず、丁寧に声を聞き直すこと。50代での起業だからこそ、一つひとつのご縁や課題に対して、真摯に向き合っていきたいと考えています。
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