AIの助言通りに値付けして失注が続いた私が、商談の現場で「やり方」を変えた理由
50代で起業し、地域の中小企業向けにIT支援やDX推進を行っているCloudLab代表の岩森です。
エンジニアとして20年以上の経験がある私ですが、起業した当初から一つ大きな課題を抱えていました。それは「営業や値付け(価格設定)の経験がほとんどない」ということです。
自分の技術や経験を、いくらで提供するのが適正なのか。経験がない不安を補うために私が頼ったのが「生成AI」でした。しかし、AIにアドバイスをもらって提示した見積もりは、ことごとく失注という結果に終わりました。
今回は、失注の失敗から学んだ「専門外でAIを使うときの矛盾」と、実際の商談でアプローチをどう変えたのかについてお話しします。
AIの「その価格は安すぎます」を信じた結果
起業初期、私はAI(ChatGPTなど)に自分の経歴や専門性、開発するシステムの内容、そして一般のシステム開発相場を入力し、「このサービスはいくらで提案すべきか」を相談していました。
すると、AIからは非常に論理的で説得力のある回答が返ってきます。
「あなたの経験と提供する付加価値、顧客が将来得られる費用対効果を考えれば、その提示額は安すぎます。数百万円規模の提案でも十分に妥当です」
文章としての完成度が高く、理路整然と説明されるため、営業経験の浅い私は「自分の技術を安売りしすぎていたのかもしれない」と納得してしまいました。
しかし、心の中では強い違和感もありました。お相手は地域で事業を営む小さな会社です。実績もない出来立ての会社から、いきなり高額なシステムを買う余裕や信頼関係が本当にあるのだろうか――。
不安を抱えながらも、論理的なAIの回答を優先して高めの見積もりを提示しました。結果は、失注です。しかも1度だけでなく、似たようなパターンで何度も断られてしまったのです。
専門外の領域でAIを使うときの「大きな矛盾」
この失敗を通じて、私はAI活用における根本的な矛盾に気づきました。
「営業経験がないからAIに相談しているのに、AIの提示したアドバイスが現場で通用するか判断するには営業経験が必要になる」
専門外の分野でAIを使うと、出てきたアウトプットが「現実的かどうか」を評価する軸が自分の中にありません。AIに「営業責任者の視点で反論してください」と指示を与える手法もありますが、反論を作るのも同じAIです。結局、こちらの前提条件や問いかけ次第で正反対の答えが出てきてしまい、どちらも説得力があるため、未経験者には判断がつきません。
システム開発の理論的な価値と、まだ実績のない会社から最初の顧客が実際に支払える金額は別物です。相手の比較対象は大手の高額な見積もりではなく、「紙やExcelの手作業」や「今のまま何も変えないこと」かもしれません。その現実に目を向けず、AIの論理だけで価格を決めてしまったことが最大の反省点でした。
2回目のヒアリングで変えた「2つのアプローチ」
先日、地元の製造業の会社へ2回目のDXヒアリングに伺う機会がありました。1回目の訪問では言葉だけで説明したため相手に導入イメージが湧かず、手応えがあまり得られていませんでした。
そこで今回は、過去の失敗を踏まえてやり方を大きく変えました。
1. 言葉ではなく「簡単な試作品(モック)」を持参する
スマートフォンで現場の作業者が「開始」「中断」「完了」を押せる簡単なサンプル画面と、PC側の管理画面を作って持参しました。
実物を見せた途端、社長の反応がガラリと変わりました。
「作業者が大量のデータから仕事を選ぶのは大変だから、製造番号で絞り込める画面が必要だな」といった具体的な指摘が飛び出してきたのです。
会話が「こんなシステムが作れます」という機能の説明から、「実際の現場でどう使うか」という運用の議論に深まりました。
2. 先に一発見積もりを出さず、相手の予算感を探る
価格についても、こちらから「〇〇万円です」と見積書をいきなり出すのをやめました。
試作品を見た社長から「これっていくらくらいでできるの?」と聞かれた際、まずは「仮に月々〇〇円で、4ヶ月間かけて段階的に進めるとしたらどうでしょうか?」と、概算の費用感と進め方のイメージを伝え、相手の反応を伺いました。
すると社長から「その金額なら社内検討できる。ただ、その費用をかけるなら今のままでいいという声が社内から出るかもしれない」という、リアルな本音を引き出すことができました。
もし一発で見積書を投げつけていたら、相手は理由も言わずに「今回は見送ります」と去っていたかもしれません。社内のハードルや検討範囲が事前に分かったことで、次に打つべき手が見えてきました。
AIに「正解」を求めず、「仮説」を作らせる
まだ受注が決まったわけではなく、一歩前進した段階に過ぎません。しかし、前回の失敗に比べれば圧倒的に建設的な商談ができています。
今回の経験から、専門外の領域でAIを使う際の方針を以下のように定めました。
- AIに「正解(確定価格や最終結論)」を決めさせない
- AIには「複数の仮説」を作らせる(通常プラン、機能を絞った実証実験プラン、段階導入プランなど)
- 最後は現実の顧客との対話と試作品で確かめる
AIは試作品のアイデア出しや、商談での質問項目の整理には非常に役立ちます。しかし、目の前の顧客が何に価値を感じ、いくらなら払えるのかという「現実の答え」は、現場の対話の中にしかありません。
50代での起業は試行錯誤の連続ですが、AIに使われるのではなく、AIを仮説検証のパートナーとして扱いながら、泥臭く現場の声に耳を傾けていきたいと思います。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。現場の課題に寄り添った現実的なシステム提案を得意としておりますので、IT導入や業務効率化でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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