自分の提供するサービスやコンサルティングの価格をいくらに設定するか。これは起業したばかりの頃はもちろん、新しい事業を始める際にも常に頭を悩ませる問題です。
最近はChatGPTなどのAIに価格設定の相談をする方も増えています。自分の経歴や専門性、提供するプログラムの内容、訪問回数や相場を入力して「いくらで提案すべきか」と尋ねるわけです。
すると、AIはよくこう答えます。
「その金額では安すぎます。あなたの実績なら月額数十万円、場合によっては100万円以上でもおかしくありません。専門家としてもっと自信を持ってください」
こう言われると、正直なところ非常に気分が良いものです。「自分にはそれだけの価値があるのか」「安売りしてはいけないな」と背中を押された気持ちになります。
しかし、そのAIが推奨した金額を見積書に書いてそのまま地域の中小企業へ持っていくと、現実は甘くありません。「高すぎる」「そこまでお金をかける課題ではない」と断られてしまうことが少なくないのです。
私自身もIT活用やシステム開発の提案で同じような失敗をしてきました。なぜAIの言う通りの価格では売れないのか、そして地域ビジネスにおいてどのように価格を決めていくべきなのか、私なりの考えを整理してお話しします。
AIが提示する「理論上の価値」と「現場のお金の重み」
私自身、20年以上のIT業界での経験や保有資格、業務と会計を横断して見られる強みなどをAIに入力して価格を試算させたことがあります。AIは作業量や大手企業の市場相場から計算して「これだけのシステム開発なら数百万円が妥当です」と非常に説得力のある金額を提示してくれました。
確かに大企業や上場企業であれば、年間で数千万円のシステム投資は珍しくありません。全体の予算から見ればわずかな割合です。
しかし、地元の小規模事業者や中小企業にとって、同じ「100万円」でもお金の重みがまったく異なります。
「そのシステムを入れて本当に元が取れるのか」
「現場の社員が使いこなせずに無駄にならないか」
お客様からすれば、大きな不安と隣り合わせの投資になります。こちらが「業界相場として適正です」と説得したところで、相手にとって現実的に払える金額でなければ契約には結びつきません。
ここで大切なのは、「理論上の価値があること」と「今その価格で買ってもらえること」は別だということです。AIは作業量や一般的な相場から価値を弾き出すのは得意ですが、目の前のお客様の予算感や信頼関係の深さまで考慮することはできません。
単なる「安売り」と「戦略価格」の決定的な違い
では、最初実績を作るためにはとにかく値段を下げればいいのかというと、それも違います。
知人の士業の先生から興味深い話を聞きました。その方も地元企業向けの人事プログラムの価格をAIに相談した際、「安すぎる、もっと高額にできる」と言われたそうです。しかし、最終的にはAIの提案よりかなり抑えた金額で契約を結びました。
ただし、単に「安くします」と言って下げたのではありません。
まず本来の「基準価格(通常料金)」を提示した上で、次のように説明されたのです。
「本来はこの価格です。しかし今年は開業初年度の特別期間として、実績を作らせていただく代わりに限定価格で提供しています」
これは単なる安売りとは根本的に異なります。
基準価格がない安売りは、相手から「高い」と言われたり競合と比較されたりした瞬間に、その場の空気で値段を下げてしまいます。すると顧客側は「最初からその値段でできたのではないか」「もっと交渉すれば安くなるのでは」と不信感を抱く原因になります。
一方、「戦略価格」には明確な理由・期間・対象範囲があります。通常価格を示した上で「なぜ今回はこの金額なのか」を論理的に説明できれば、顧客も「本来は価値のあるサービスを特別に提供してもらっている」と正しく理解できます。
無条件な値下げが招くリスク
いくら実績が欲しくても、理由のない値下げには強い警戒が必要です。最初に安く受けすぎてしまうと、その金額が顧客の中で「あなたの適正価格(定価)」として定着してしまうからです。
一度低い価格で引き受けると、次回以降の案件でも同じ金額を求められます。追加の作業が発生しても追加費用を請求しにくくなり、気づけば要求範囲だけが広がって自分の首を絞めることになります。
私自身も過去に、競合他社が極端な安値を提示している案件から撤退したことがあります。無理に価格を合わせて受注しても、契約後にずっとその格安他社と比較され続ける未来が見えたからです。
価格を下げれば売れるわけでもなければ、自信を持って高値をつけておけば良いわけでもありません。自社のステージと案件ごとに慎重な判断が必要です。
適正価格を決める5つの視点
価格設定に迷ったとき、私は次の5つの視点に分けて考えるようにしています。
- 市場価格: 他社や競合が同等のサービスをいくらで提供しているか(相場)。
- 原価: 自分の作業時間、交通費、外注費、ツール費用、アフターフォローに必要なコスト。これ以下は赤字。
- 顧客価値: 導入によってお客様にどれだけの売上増加、コスト削減、課題解決をもたらすか。
- 現在の信用価格: 実績の数や信頼度。実績ゼロの人と、50社導入してきた人では同じ内容でも売れる価格が異なる。
- 戦略価格: 事例化や実績作り、今後の継続取引などを見据えて意図的に調整する価格(理由と範囲の明確化が必須)。
AIが得意とするのは、1の「市場価格」の調査や、2の「原価の見落としチェック」です。自分一人で考えていると不安になって必要以上に安くしてしまったり、原価を見落としたりすることがあるため、AIに相場や工数を尋ねることは非常に有効です。
しかし、4の「現在の自分の信用」や、5の「地域での関係性を含めた戦略判断」は、AIには判断できません。
最後の決断は現場を知る人間が行う
AIに自分の経歴や苦労を入力すると、AIは利用者を励ますように「あなたはもっと評価されるべきだ」という回答を出しやすくなります。そうした言葉は心地よいものですが、事業の目的は「AIから高く評価されること」ではありません。
本当の目的は、地域のお客様と良好な関係を築き、納得いただける形で価値を提供し、適正な利益を残して次の仕事につなげていくことです。
AIが示す相場や意見はあくまで客観的な「材料のひとつ」として受け止め、最後に価格を決めるのは現場の空気感と相手との文脈を知っている人間でなければなりません。相場を知った上で、目の前のお客様とどう向き合うか。これからも等身大の視点で価格と価値に向き合っていきたいと考えています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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