先日、ある製造業の社長のもとへAIやDX活用のヒアリングでお伺いした際、実際の商談で大きな失敗をしてしまいました。
今回は、商談が途中で止まってしまった私の苦い経験と、そこから学んだ「お客様も気づいていない本当の課題の引き出し方」について書こうと思います。
「今、一番困っている業務は何ですか?」という質問の罠
社長と向かい合った際、私は最初にこんな質問をしてしまいました。
「今、一番困っている業務は何ですか?」
「これがなくなったら一番嬉しいという仕事はありますか?」
営業のヒアリングとしてはごく一般的な、課題を探るための質問だと思います。しかし、社長から返ってきたのは想定外の一言でした。
「うーん、そこまで困っていることはないかなぁ」
正直、その瞬間は焦りました。課題を解決するために訪問しているのに、お客様から「課題はない」と言われてしまったら、こちらから提案できるものがなくなってしまうからです。しかも社長自身も「AIやITで何ができるのか、まだ具体的なイメージが湧かない」とおっしゃっていました。
最初の瞬間は「もっと魅力的な他社事例を紹介しなければ」「AIでできることをわかりやすく説明しなければ」と考えました。ですが、後から冷静に振り返ってみると、問題があったのはプレゼンではなく「質問の仕方」そのものだったのです。
なぜ「困っていること」は言葉に出てこないのか
そもそも、お客様が自分たちの課題を明確に言葉にできるのであれば、すでに自分たちで調べて解決策を探しているはずです。
特に何年も続けてきた業務においては、どんなに不便なやり方であっても、現場にとっては「それが当たり前の日常」になっています。
- 作業が終わったかどうか、現場まで歩いて聞きに行く
- 紙の日報を回収し、後からパソコンのシステムに打ち直す
- 機械の稼働予定を、担当責任者が頭の中だけで覚えている
- 進捗を確認するために、毎日何度も電話をかける
こうした作業を毎日繰り返していると、「そういう仕事だから仕方がない」という意識になり、不便さ自体を課題だと認識しなくなります。だから「何に困っていますか?」と聞かれても、答えが出てこないのです。
「課題」ではなく「仕事の流れ」と「具体的な行動」を聞く
では、どう聞けばよかったのか。今回、商談の後半で少しずつ具体例が出てきたのは、仕事の流れを順番に尋ねる形に切り替えたからでした。
「現場からはどんな報告が上がってきますか?」
「その報告書は紙ですか、パソコンですか?」
「その書かれた数字は、後でどこかに入力し直しますか?」
「作業が終わったかどうかは、どうやって確認していますか?」
このように順を追って事実を聞いていくと、社長の口からポツポツと本音が漏れ始めました。
「作業が終わったかどうか、わざわざ現場まで聞きに行かないと分からないんだよね。それが現場責任者にとっても結構なストレスになっていて……」
これは非常に大きなヒントでした。「進捗管理に困っていますか?」と抽象的に聞いても「困っていない」と返ってきたはずです。しかし、「誰がどうやって確認しているか」という具体的な行動を聞いたことで、隠れていた負担が表面化しました。課題という抽象的な言葉ではなく、実際の行動を聞くことの大切さを実感した瞬間です。
お客様は「システム」ではなく「面倒がない状態」を求めている
この商談で気づいたもう一つの大事な視点は、お客様はシステムやツールそのものを欲しがっているわけではないということです。
社長が欲しかったのは、ガントチャートでも、最新の進捗管理システムでも、AIダッシュボードでもありませんでした。ただ「わざわざ聞きに行かなくても、終わったかどうかが自然と分かる状態」を望んでいただけです。
ITやシステムの支援を行う側は、つい「工程管理」「人員配置最適化」「データ連携」といった機能や専門用語で考えてしまいがちです。しかし、お客様の言葉に置き換えれば、悩みはもっとシンプルです。
- 「いちいち確認しに行くのがしんどい」
- 「誰がどこで作業しているのか分からない」
- 「予定を頭で覚えておくのが大変」
営業やヒアリングで見つけなければならないのは、システムの機能要望ではなく、相手が毎日繰り返している「面倒な行動」です。
隠れた問題を見つけるための質問アプローチ
今回の経験を経て、相手が「課題」を認識していなくても、現場の詰まっている部分(ボトルネック)を見つけるには、以下のような問いかけが有効だと感じています。
- 「その仕事は、誰の作業から始まりますか?」
- 「次にそのデータを渡すのは誰ですか?」
- 「作業を進める中で、待ち時間が発生している場所はありますか?」
- 「誰かに確認しないと先に進めない工程はどこですか?」
- 「同じ内容を、紙とパソコンで2回入力していませんか?」
- 「特定の人が休むと、途切れてしまう仕事はありますか?」
- 「頭の中だけで管理している予定や手順はありませんか?」
これらの質問であれば、お客様が「課題」という言葉を使えなくても、日々の行動を振り返る中で自然と違和感や負担を見つけ出すことができます。
営業とは、相手の問いを一緒に言語化していく仕事
正直なところ、私は営業が得意なタイプではありません。しかし、営業という仕事は「相手が持っている答えを一方的に引き出すこと」や「説得すること」ではないのかもしれない、と最近思うようになりました。
本当の営業とは、お客様自身もまだ気づいていない違和感や問題を、対話を通して一緒に言葉にしていく仕事なのではないでしょうか。
今回の訪問でも、最初から強いご要望をいただいたわけではありません。しかし会話を重ねる中で、「どんな簡易的な仕組み(プロトタイプ)を作れば現場に使ってもらえそうか」という具体的な輪郭は見えてきました。
反省点としては、今回は業務の頻度や時間、誰にどれくらいの負荷がかかっているかといった「具体的な数字」まで深く踏み込みきれなかったことです。次回は仕事の流れに加えて、そうした定量的データも丁寧に確認しようと考えています。
「何に困っていますか?」と聞いて答えが出なくても、すぐに「ニーズがない」と判断するのは早計です。お客様が毎日行っている確認、手入力の転記、待ち時間、やり直しの中にこそ、まだ言葉になっていない本質的な課題が隠れています。
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