「AIで安く作れます」と言われた日のモヤモヤ
先日、あるお客様とのシステム開発に関する商談でのことです。事業の問い合わせが増え、将来的に顧客管理、申し込み、課金、入金管理まで一元化が必要になる、非常に面白い事業でした。私はその事業に対するシステム提案を進めていたのですが、会話の中で、お客様の社長からこんな一言がありました。
「実は、別のSNS運用代行会社も、AIを使えばシステムをサクッと安く作れますよ、と提案しているらしいんです。」
正直、この話を聞いた瞬間はかなりモヤッとしました。「いやいや、画面を作るのと、事業が止まらない仕組みを作るのは全然違うじゃないか」と。心の中でそう叫んでいました。
確かに、今のAIは本当にすごいです。画面やフォーム、ダッシュボードのようなもの、ランディングページを作るのは、昔に比べて格段に簡単になりました。AIに聞きながら、それっぽいものを作れてしまう時代です。私自身もAIを日常的に活用していますから、AIで作ること自体を否定するつもりは全くありません。
しかし、お客様からすると、私のようなIT会社も、AIで「安く作れる」と謳う業者も、どちらも「システムを作れる人」に見えてしまう。そして、「じゃあ、安い方でいいじゃないか」となりかねない。この点が、私にとってはかなり怖い現実だと感じました。
AI時代、本当に比較すべきものは何か?
冷静に考えてみれば、お客様が比較しているものは本当に同じなのでしょうか?
見た目の画面を作るだけなら、AIでかなりできてしまいます。しかし、そのシステムが実際に事業の中心に入った時、何が起こるかを想像しなければなりません。
- 機密情報やお金の情報が入る場合、どう守られるのか?
- 電子契約や決済サービスと連携できるのか?
- 社長が見たい数字を正確に出せるのか?
- 経理担当者が確認できるデータ構造になっているか?
- 万が一障害が発生した際、復旧できる仕組みや体制があるか?
- 3年後、会社が大きくなった時に、作り直さずに拡張できる設計になっているか?
- お客様側の手作業は本当に減るのか?
これらを考えると、単なる「AIで画面を作りました」とは全く次元の違う話になってきます。しかし、お客様は最初からこれらの違いを分かっているわけではありません。ここで私が「それはセキュリティが…」「引き継ぎの要件が…」「保守運用のことを考えますと…」と専門用語を並べ立ててしまうと、お客様は疲れてしまいます。そして私は、自分の提案が高い理由を必死に説明する、印象の悪い営業マンになってしまうでしょう。
価格競争の土俵には乗らない
では、どうすれば良いのか。私が今回改めて思ったのは、説明で勝とうとするのではなく、「比較軸」をこちらから作ることです。
「安く作れるか」という問いに対して、「はい、うちも安くします」と答えるのは、相手の土俵に乗って価格競争に陥ることを意味します。体力勝負では、小さな会社は消耗してしまいます。
そうではなく、お客様がシステムを導入する上で、本当に比較すべき項目を整理し、見える化して提供する。例えば、以下のようなチェックリストです。
- システムの設計書は存在するか?(障害時の対応や引き継ぎに不可欠)
- 障害時は誰が、どの範囲で対応するのか?
- 重要な情報はどこに保存され、どのようにバックアップされるのか?
- 決済情報は自社で持つのか、持たないのか?(セキュリティリスクに直結)
- 月額費用に何時間分の改修や保守が含まれるのか?
- 将来の拡張性に対応できる設計になっているか?
- 経理担当者が確認できる数字が出せるか?
- お客様側の手作業が本当に減るか?
このような比較軸を提示することで、お客様は単に「安く作れるか」だけでなく、「安心して事業の本部機能として使えるものか」という土俵で判断できるようになります。この土俵であれば、私のような小さなIT会社にも勝ち筋があるはずです。
私の仕事は「コードを書くこと」ではない
AIが進化すれば、プログラムコードを書くことの価値は相対的に下がっていくでしょう。だからこそ、私の仕事は「コードを書くこと」だけではありません。
- 何を作るべきか、何を作らないべきかを判断する
- どこまでをゼロから作り、どこまでを外部サービスで利用するかを見極める
- 人間の運用で残すべきところと、システム化すべきところを区別する
- 社長が見たい数字は何か、現場や経理が困るポイントはどこかを整理する
- 将来の拡張性を考えた時に、ボトルネックになるポイントはどこかを予測する
このような「整理する力」は、まだAIが完全に代替できない、人間ならではの価値だと信じています。もちろん、AIの進化は想像以上に速いので、この領域もいずれAIが埋めてくる可能性はゼロではありません。しかし、今のところは、この整理する力こそが、お客様に提供できる本質的な価値だと考えています。
信頼で選ばれるITパートナーになるために
「AIで安く作れます」という業者が増える中で、私たちは価格で戦うのではなく、お客様の意思決定を支援するパートナーになるべきです。お客様がまだ比較の仕方が分からない段階であれば、私たちがガイド役となり、本当に大切な判断軸を提示する。
それは「偉そうにレクチャーする」ということではなく、お客様が後で困らないよう、将来を見据えた視点を提供することです。その比較軸を見てもらった上で、それでもお客様がリスクを取ってでも安い方を選ぶというのであれば、それはそれで一つの選択でしょう。しかし、そこで「価格ではない信頼」で選んでいただけたなら、それが私たち小さな会社にとって、何よりの喜びであり、今後の事業の糧になります。
AI時代において、単にコードを書ける人ではなく、事業を止めない堅牢な設計ができる人、社長の頭の中にある漠然とした構想を整理できる人、そして現場と会計とITをつなげられる人。そうした人材の価値は、まだ失われていないと信じています。私も、この価値を追求し、お客様に寄り添い続けるITパートナーでありたいと強く思っています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。IT戦略やAI活用についてお考えでしたら、お気軽にご相談ください。
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