こんにちは、CloudLab代表の岩森吏央です。
私は50代で起業し、日々、地域の中小企業様のIT活用やDX推進を支援しています。その中で、現場に足を運び、経営者様だけでなく、実際に業務を回している方々から直接お話を聞くことを大切にしています。先日も、ある塗装会社様で業務ヒアリングを行う機会がありました。今回は、その中で私が得た大きな気づきについてお話ししたいと思います。
「システムを入れたのに変わらない」という声の裏側
私の「システム屋」としての初期仮説
ヒアリングに伺う前、私の頭の中には「いかにもDX」といったイメージがありました。例えば、AIで図面を読み込ませて見積もりを自動作成したり、営業の数字をダッシュボードでリアルタイムに見える化したり、といった提案を考えていました。システム開発を生業とする私としては、どうしても「新しいシステムで何ができるか」という視点に意識が向きがちです。
しかし、実際に現場で話を聞くと、私が想定していたような「AIで劇的に効率化」といった話だけでは解決できない、もっと泥臭い、しかし本質的な問題が見えてきました。
総務・経理ヒアリングで見えた「泥臭い」現実
今回お話を聞いたのは、営業担当の方ではなく、総務・経理・受発注を統括されている責任者の方でした。会社には既に案件管理や請求書作成などのシステムが導入されています。見積もり作成から案件登録、発注金額の確認、粗利率の計算、請求書作成、売上ダッシュボード表示といった機能は一通り揃っている状態でした。
それなのに、総務・経理の担当者の方は「システムがあるのに、結局、私が全部確認している」と困惑されていました。具体的には、必要な情報がシステムにきちんと入力されないため、最終的にはその方が一つ一つ人力で確認し、調整しているというのです。
システムに必要な情報が入ってこないボトルネック
属人化が招く業務の滞り
例えば、ある案件が「契約済み」なのか「着工済み」なのか、いつ着工したのか、どの業者に発注するのか、発注金額はいくらで合意したのか、材料費の相殺は適切に行われたか、請求書は出したのか、入金はあったのか……。これらの情報がバラバラで、システムに入力されていないことが多々あるとのことでした。
するとどうなるか。システム上は便利なはずなのに、総務・経理担当の方が「この案件どうなってるんだろう?」「契約は決まってたかな?」「発注はまだ出してなかったっけ?」と、常に自身の記憶と勘、そして個別の確認作業に頼らざるを得ない状況に陥っていました。会社の業務がシステムで回っているように見えて、実はその一人の人の「気づき」と「確認」で成り立っている、いわゆる「属人化」の状態です。その人がいなければ業務が止まってしまう、非常に危険な状態だと言えます。
「工事は始まっているのに…」現場とシステムの乖離
特に印象的だったのが、「業者さんから『発注ですか?』と連絡が来て、現場を見たら既に工事が始まっている。でもシステム上はまだ進んでいない」という話でした。総務・経理の責任者からすれば、これはたまったものではありません。業者さんには「請求書は25日必着です」とお願いしているのに、こちら側の発注が遅れていれば、業者さんからすれば「そっちが遅いのに、こっちには締め切りを守れと言うのか?」となってしまいます。信頼関係にも関わる問題です。
DXの本質は「業務ルール設計」にある
このような話を聞いて、私は「これは新しいシステムを作れば解決するような単純な話ではないな」と感じました。下手に新しいシステムを導入しても、また同じことが繰り返される可能性が高い。問題の本質は、システムそのものというより、情報がシステムに正しく入力されない「業務ルール」や「業務設計」にあると気づいたのです。
システムは魔法の箱ではない
経営者の方々は「リアルタイムで数字を見たい」「売上を見える化したい」「AIで効率化したい」とおっしゃいます。それは正しい目標だと思います。しかし、リアルタイムで見たいのであれば、リアルタイムで情報が入力されない限り、それは不可能です。システムは魔法の箱ではありません。入力されていない契約は見えないし、登録されていない追加工事は請求書に出てこない。紐づいていない入金は未入金かどうかの判断もできません。
人は「必要なこと」しかやらない
結局のところ、人間は「必要なこと」しかやりません。私も含めて、人は「これやっておいてくださいね」と言われても、それが自分の仕事に直結していなければ、つい後回しにしてしまいがちです。しかし、「これを入力しないとお金が払われません」「これを入力しないと案件が進みません」「これを入力しないと自分のインセンティブに反映されません」となると、途端に動き出します。この人間の心理を捉え、業務フロー自体に「入力しないと先に進めない」という仕組みを組み込むことこそ、DXの本質だと私は考えます。
業務フローに「入力しないと進まない」仕組みを
今回のヒアリングから、具体的な改善アイデアも浮かんできました。
業者ポータルというアイデア
例えば、業者さん向けのポータルサイトを構築するというのはどうでしょうか。業者さんがログインすれば、自分に割り当てられた案件や発注金額を確認できる。材料相殺のルールがあるなら、その相殺金額も自分で確認できる。さらに、請求書もその仕組みの中で作成でき、必要な書類もアップロードできるような機能です。
全員が楽になる「縛り」
そして、この仕組みに「必要な情報が入っていなければ、請求できない」「発注できない」「現場に入れない」といった「縛り」を設けるのです。一見厳しく聞こえるかもしれませんが、実はこの方が全員にとって楽になります。
- 総務・経理担当者:催促の手間が減る。
- 営業担当者:案件の進捗状況が正確に把握できる。
- 業者さん:請求書の手作業が不要になり、情報確認の手間が省ける。
- 社長:リアルタイムで正確な数字を把握できる。
つまり、業務の流れに沿って必ずシステムを使わないと先に進めないような構造を作り、「入力しなさい」と口頭で促すのではなく、「入力しないと次に進めない」状態にする。これが、業務ルールとシステムを一体化させるということです。
会社の業務を一番知る人、そして属人化の課題
今回のヒアリングで強く感じたのは、総務・経理の方が単なる事務作業者ではなく、実は会社の業務を一番よく理解している存在だということです。どこの元請けさんが何日締めなのか、どの業者さんが材料費相殺をしているのか、どの書類がないと現場に入れないのか、どの作業が漏れると後でお金のズレになるのか……。それら全てを頭に入れて、業務を回しているのです。これは素晴らしいことであると同時に、非常に危うい状態でもあります。
AI導入の前に解決すべきこと
その人がいるから会社が回っている、まさに「属人化」です。その人が休んだら業務が滞り、もし退職してしまったら誰も分からなくなる、というリスクを抱えています。中小企業のDXは、AIやクラウド、ダッシュボードといった華やかなツールを導入する前に、まずこの「属人化」を解きほぐすことから始めるべきだと痛感しました。
もちろん、AIを活用して見積もり作成を効率化したり、様々な業務を自動化したりする試みは私も積極的に行っています。しかし、AIで見積もりを早く作れても、その後の発注、請求、入金、書類管理がバラバラであれば、結局会社全体が楽になるわけではありません。AIで入り口だけ早くなっても、出口で事務の人が詰まってしまっては本末転倒です。むしろ事務の人からすれば「営業だけ便利になって、こっちの負担は増えていませんか?」と感じてしまうことにもなりかねません。
新しいシステムより、まず「業務の流れ」から
今回のヒアリングで得た私の大きな学びは、システム開発者として「作る前にちゃんと聞け」ということでした。特に、現場で本当に業務を回している人、つまり社長だけでなく、総務、経理、事務の方々の声に耳を傾けることの重要性です。そこにこそ、会社の本当のボトルネックが隠されているのです。
社長が「この数字が見えない」と悩んでいる原因は、システムがないことではなく、業務ルールや業務設計、そしてそれらのルールが守られていないことにある。それが明らかになりました。だからこそ、私がこれから提案する際は、「新しいシステムを作りましょう」ではなく、「まず仕事の流れを明らかにし、どうあるべきかを決めましょう」というところから入るべきだと強く感じています。
まとめ:本当に意味のあるDXを進めるために
DXと言うと、AIやクラウド、ダッシュボードといった言葉が先行しがちですが、本当に大切なのは、会社の中で情報がどう流れ、業務がどう動いているのか、どこで滞っているのか、そして誰が無理をして繋いでいるのかを見極めることです。無理をしている人を楽にしない限り、本当の意味でのDXは実現しません。
今回のヒアリングを通じて私が学んだ結論は、「システムを入れる前に業務の流れを見よ。AIを入れる前に、誰が何をいつ入力するかを決めよ。便利な画面よりも、入力しないと仕事が進まない仕組み・構造を作れ」ということです。現場は常に私たちに学びを与えてくれます。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。今回のような業務設計のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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