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AI・IT活用

「30万円で1億円のシステム開発」SNSで話題のAI内製化事例を一次情報から読み解く

「30万円で1億円のシステム開発」SNSで話題のAI内製化事例を一次情報から読み解く

最近、SNS(X)で非常に話題になっていた、ある製造業のAI活用事例があります。

内容は「プログラム未経験の専務さんが、AIを使って30種類以上の社内システムを開発。外注すれば8,000万円から1億円ほどかかるシステムを、わずか30万円程度の費用で構築し、月に420時間もの業務時間を削減した」というものです。

これだけを聞くと、まるで魔法のような素晴らしい話です。私自身、日頃からAIを活用してシステム開発やDX支援を行っている立場として、「本当に30万円でそこまでのシステムが作れたのだろうか」と強い興味を持ち、元となる一次情報を調べてみました。

結論から言うと、この会社が取り組まれた内容自体は本当に素晴らしい成果です。しかし同時に、SNS上で拡散されていた情報には、分かりやすさを優先するあまり「少し単純化されすぎている部分」があることも見えてきました。

今回は、この事例の事実関係を整理しながら、中小企業がAI活用やIT内製化を進めるうえで本当に参考にすべきポイントについて考えてみたいと思います。


一次情報から分かった「事実」と「数値」

まず、公的支援機関による取材記事などの一次情報を確認したところ、成果として挙げられている数字の多くには確かな裏付けがありました。

  • 30種類以上の業務アプリを構築:図面検索、検査成績書、生産管理、在庫管理、品質不良管理、社内連絡、手順書など、現場に密着したアプリ群が実際に作られていました。
  • 業務削減効果:月間420時間の業務削減、ペーパーレス化による紙の使用量月間5,600枚削減という数値も取材記事に明記されています。
  • 外注換算で約8,000万円:こちらも会社側が「もし外部のシステム会社に委託して開発していたら」と試算した比較数字として提示されていたものでした。

つまり、事例そのものが作り話だったわけではありません。現場の業務改善として非常に大きな成果を出されているのは事実です。


何が単純化されていたのか?「30万円」に含まれないコスト

では、何が単純化されていたのでしょうか。

一番大きなポイントは「30万円」という数字の解釈です。

この30万円という金額は、主に「AIツールや各種クラウドサービスの直接的な利用料(月額費用など)」の合計を指しています。決して「システムの総開発費が30万円で収まった」という意味ではありません。

システムを1から構築するためには、ツール利用料以外にも膨大な「見えないコスト」が発生します。

  • AIやプログラミングを学ぶための時間
  • 現場の社員から課題や要望を聞き取るヒアリングの時間
  • 過去の紙資料やExcelデータを整理・データ化する時間
  • 業務で利用するためのタブレットやPCなどの端末費用
  • 開発したアプリのテストやバグ修正にかかる時間
  • 運用開始後の保守・運用や問い合わせに対応する時間

もし社内の人間(今回は専務さん)が業務としてこのシステムを開発していたのであれば、その作業にかかった「人件費」は当然コストとして計算されるべきものです。

経営層や専務さんの時間が何千時間と投じられていた場合、それを金額に換算すると相応のコストになります。社内人件費は外部へ現金が出ていかないため見えにくく、SNS上では「30万円で1億円のシステムができた」というショッキングで分かりやすい数字だけが一人歩きしてしまったのだと考えられます。

一般的な中小企業で、社員1人に他の業務を止めて何千時間もシステム開発だけに集中してもらう環境を作るのは、現実的にはかなりハードルが高いのではないでしょうか。


中小企業がこの事例から本当に学ぶべき2つのポイント

「なんだ、結局コストがかかっているなら真似できないか」と切り捨ててしまうのは早計です。この事例から中小企業が学ぶべき本質は、金額の安さではなく開発の進め方と運用のあり方にあります。

私が特に参考にすべきだと感じた点は以下の2点です。

1. 最初から巨大なシステムを作らなかったこと

この会社では、最初から1億円かかるような巨大な基幹システムを一気に作ろうとはしませんでした。

まずは「紙の図面をPDFにしてタブレットで検索できるようにする」という小さな課題からスタートしています。それが上手くいくと、次は「全員が毎日使う検査成績書のデジタル化」に取り組み、その成功体験をベースに、現場から上がる小さな要望に合わせてアプリを1つずつ増やしていきました。

スモールスタートで小さく始め、現場で使いながら徐々に広げていった姿勢こそが、成功の大きな要因です。

2. 現場の要望をその日のうちに直せる「修正速度」

外部のIT会社にシステム開発を依頼する場合、以下のような手順を踏むのが一般的です。

  1. 社内で要望を取りまとめる
  2. IT会社に見積もりを依頼する
  3. 社内決裁を通す
  4. 発注して開発を待つ

そのため、「画面のボタンの位置を変えてほしい」「入力項目を1つ増やしてほしい」といった小さな変更であっても、数週間から数ヶ月の期間を要することがあります。

しかし、自社内で開発(内製化)できしていれば、「使いにくい」という現場の声をその日のうちに修正し、即座に反映できる可能性があります。内製化の最大の価値は、単に安く作れることではなく、自分たちの現場の変化に合わせて短いサイクルでカイゼンを続けられることにあります。


AIでコードは書けても、運用まで任せられるかは別問題

昨今のAI技術を使えば、プログラミング知識が乏しくてもシステムに必要なコード(プログラム)を出力させることは可能になりました。

ただし、「コードが書けること」と「会社の正式な業務システムとして安全に運用できること」の間には大きな隔たりがあります。

  • 顧客情報や機密情報が漏洩しないセキュリティ構成になっているか
  • 社員ごとに正しいアクセス権限が設定されているか
  • データベースの操作で大切な過去データが破損・消失しないか
  • 複雑な計算結果や集計値が意図通り正確に出力されているか
  • 開発を担当した社員が退職した場合、他の社員が引き継いで保守できるか

こうしたシステム構築における重要な検討事項は、AIの利用料が安くなったからといって消えてなくなるわけではありません。

私自身、日々の支援の中でAIエージェント等の最新ツールを使って開発を行っていますが、「AIを使えば誰でも簡単に安全なシステムが完成する」とは到底言えないのが現実です。


「安く作れた話」ではなく「学習する会社に変わった話」

今回の事例の本質は、「30万円で1億円得をした」という魔法のようなコスト削減の話として受け止めるべきではありません。

「現場の業務を一番よく知る人が、自分たちの仕事の課題を見つけ、AIという新しい道具を使ってすぐに試し、使いながら修正していく習慣を会社の中に根付かせた」

つまり、「製造業がAIを活用して、自ら学びカイゼンし続ける組織へと変化した物語」として見る方が、実態に近く、私たちの学びにもなるはずです。

極端な話題作りに惑わされず、自社の身の丈に合ったIT活用やAI導入を、足元から地道に進めていくことが何より大切だと感じています。


CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。

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