先日、私が開発を進めている建設業向けのAI見積もりシステムを、また現場にデモしに行ってきました。AIを活用した業務自動化は、中小企業の生産性向上に欠かせないと考えていますが、現場での反応は常に正直で、時に厳しいものです。
今回は、特に印象に残った現場の一言と、そこから私が深く考えさせられたAI活用の「本当の価値」についてお話ししたいと思います。
建設現場で刺さった一言「僕らがやった方が早い」
CloudLab代表の岩森です。私は50代で起業し、地域の事業者様のIT活用やAI導入を支援しています。今回のAI見積もりシステムも、現場の具体的な課題を解決するために開発を進めています。
デモに持っていったシステムは、建築図面を読み込み、塗装工事の見積もりに必要な情報を拾い出し、最終的には見積もりまで自動化させることを目指しています。段階的に機能を増やしているのですが、あるデモの場で、現場の方からぐさっと刺さる一言をいただきました。
「これだったら、僕らがやった方が早いですよ」
システムを開発・プレゼンしている側からすると、かなりパンチのある一言でした。しかし、この言葉は決してネガティブなだけではなく、AI活用の本質を深く考えるきっかけを与えてくれました。
AIによる図面チェック機能への手応え
実は、デモの序盤ではかなり良い反応をいただけた機能もありました。前回からの改良点で、図面の中の塗装記号を赤枠、塗装に関係しそうな用語を青枠で、AIが自動で囲む機能を追加したのです。
この機能に対しては、「これ全部自動でやってるんですか?ここまでチェックしてくれるだけでも助かる」と嬉しい言葉をいただきました。新築図面の場合、仕様書が何ページにもわたることがあり、そのチェックはベテランの方でも2時間かかることがあるそうです。それがAIを使えば5分かからずに終わり、何より見落とし防止に繋がる。これは大きな手応えでした。
図面を見る仕事は、速さも大事ですが、見落としが何よりも怖い。人間は慣れていても、忙しいと細かい記号や記述を見落としてしまいがちです。AIが事前チェックしてくれるだけでも、現場の負担軽減と品質向上に貢献できると確信しました。
本丸機能で直面した「手作業の早さ」
問題は次にデモした機能でした。改修工事の図面から見積もりを作る機能、ここが今回のシステムの「本丸」です。全体の9割が改修工事に伴う塗装工事だというお話を聞いていたので、ここをある程度自動化できれば、大きな価値があると考えていました。
ただ、全てをAIに任せるとまだ精度にブレが出るため、AIが下書きを拾い、人間が必要な箇所をクリックで補正する「半自動」のシステムとして持っていきました。図面のPDFをアップロードし、立面図や平面図を指定し、縮尺を合わせる。そして、外周や窓枠、破風(ハフ)などの箇所を人間がクリックして線を引き、その長さが自動計算され、見積もりの下書きが出来上がるという流れです。
私としては、手作業で図面を見て数字を拾い、電卓やExcelで計算するよりも、画面上で数回クリックするだけで見積もりの下書きができるのは、かなり便利になったつもりでした。しかし、現場の方から再び「この図面だったら、僕らがやった方が早いですよ」という言葉が飛び出したのです。正直、まだ面倒に見えるのか、と複雑な気持ちになりました。
「早い」の比較対象がズレていた
その場では「そうなのか」と受け止めるしかなかったのですが、後から冷静に考えると、現場の方が頭の中で比較していた対象が、私の想定とは少しズレていたことに気づきました。
おそらく現場の方が思っておられたのは、「熟練者である自分が、慣れた図面を、慣れたやり方で1件だけ見積もる」という作業の速さ。これと、私のシステムの操作手順を新しく覚える手間を比べていたのではないでしょうか。確かに、小さな図面や、長年培った経験と勘があれば、ベテランの方にとっては手作業の方が早く感じられる場面もあるかもしれません。
デモでは、PDFの読み込み、図面種類の指定、縮尺合わせ、外周クリックといった一連の操作を見せていました。それらの手順を覚えるくらいなら、普段通り自分でやった方が早い、と感じるのも無理はないでしょう。しかし、本当に比べるべきは、その一点だけではないはずです。
AI見積もりシステムが本当に提供する4つの価値
AI見積もりシステムの価値は、ベテランの最速作業スピードに「勝つ」ことだけではありません。より広い視点で見れば、中小企業や地域ビジネスの未来に繋がる、いくつかの重要な価値を提供できると私は考えています。
1. 見落とし防止による品質向上
先ほども触れたように、AIが図面上の記号や用語を自動でハイライトする機能は、人間の見落としを劇的に減らします。特に複雑な新築図面や、多忙な中で行う見積もり作業では、見落としは品質低下や手戻りの原因になりかねません。AIが目を光らせることで、ヒューマンエラーを防ぎ、見積もりの精度と信頼性を高めることができます。
2. ベテランの暗黙知を形式知化し、若手を育成する
長年の経験を持つベテランの方々の頭の中には、図面から必要な情報を読み解き、適切な見積もりを算出するための膨大な「暗黙知」が蓄積されています。この暗黙知は、言語化やマニュアル化が難しく、若手への継承が大きな課題となっています。
AI見積もりシステムは、ベテランが普段行っている思考プロセスの一部をシステム上に再現し、形式知として落とし込む役割を果たします。例えば、特定の箇所をクリックするだけで長さが計算され、それがどの見積もり項目に紐づくのかが明確になる。これにより、ベテラン以外の人でも、システムのガイドに従って見積もりを作成できるようになり、若手スタッフの戦力化を早めることができます。
3. 見積もりロジックを学ぶ教育ツールとしての可能性
AIが下書きを作成し、人間がそれを補正する「半自動」のプロセスは、単なる時短ツールに留まりません。若手スタッフにとっては、ベテランが付きっきりで教える時間がない中でも、見積もりのロジックや、図面のどこに注目すべきかを実践的に学ぶことができる「教育ツール」としての側面も持ちます。
AIが拾い出した情報を見ながら、人間がクリックで補正していく過程は、見積もり作成の思考プロセスを可視化し、若手が「なぜこの数字が必要なのか」「この箇所を見落としてはいけないのか」を理解する手助けとなるでしょう。
4. ベテランの時間を創出し、戦略的業務へシフト
現場の方との会話の中で、「若手を育てたいが、日々の業務に追われてなかなか時間が取れない」という声や、「本当はもっと営業エリアを広げたいが、現場管理や見積もりで手一杯だ」という話も出てきました。
AI見積もりシステムによって、ベテランの方々が見積もり作業にかける時間を短縮できれば、その分、営業活動、若手育成、現場管理、あるいは新しい事業戦略の検討といった、より付加価値の高い、戦略的な業務に時間を回せるようになります。見積もり作業単体の時短だけでなく、会社全体としての処理能力向上、ひいては事業拡大に繋がる可能性を秘めているのです。
半自動化でも大きな価値がある
「手作業が早い」という一言は、確かに部分的な真実を含んでいます。熟練者が慣れたやり方で1件の小さな図面を処理するなら、その通りかもしれません。しかし、それをもってシステム化やAIの価値がないと判断するのは、あまりに視野が狭いと言えるでしょう。
AIの完全自動化にはまだ時間がかかるかもしれませんが、現在の「半自動化」の段階でも、今回お話ししたような多角的な価値を提供できると私は確信しています。見落とし防止、暗黙知の形式知化、若手育成、そしてベテランの戦略的業務への時間創出。これらは、日々の業務に追われる中小企業の経営者様にとって、喫緊の課題ではないでしょうか。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。今回のような業務課題のDX化、AI導入についてもお気軽にご相談ください。私自身、50代で起業し、現場のリアルな声に耳を傾けながら、地に足のついたIT・AI活用を提案しています。貴社の事業の未来を共に考えるパートナーとして、ぜひ一度お話ししませんか。
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