こんにちは、CloudLab代表の岩森です。
前回、私は「うちは安売りはしない。適正な品質で作る」という話をしました。しかし、今回はそれに対する自分へのアンチテーゼ、つまり「本当にそれで良いのか?」という問いかけをしたいと思います。きっかけは、ある案件でAIを使ってかなり低価格でシステムを作る競合が現れたことです。
その話を聞いたとき、正直なところ「その金額では無理でしょう」と思いました。長年システム開発に携わってきた経験から、業務システムは画面が動けば完成ではないことを知っています。データ管理、セキュリティ、例外処理、障害対応、引き継ぎ、著作権など、考慮すべき点は山ほどあります。経験があるほど、こうしたリスクを先に考えてしまうものです。だからこそ、「そんな価格では受けられない、安売りはしない」と考えていました。この判断自体が完全に間違っているとは今も思っていません。
ただ、数日経って別の怖さ、別の考察もできるのではないかと思い始めたのです。もしかしたら将来、痛い目を見るのは相手ではなく、私の方なのかもしれない。今日はそんな話をしたいと思います。
イノベーションのジレンマが示す未来
「イノベーションのジレンマ」という言葉があります。簡単に言えば、既存の成功企業がこれまでの顧客や利益を大事にするあまり、最初は品質の低い新しい技術やサービスに対応できなくなる、という話です。
新しいサービスが登場した当初は、大抵大したことがないように見えます。品質も低く、利益も小さい。既存の優良顧客も欲しがらない。だから成功している企業ほど「そんなものは相手にする必要がない」と判断しがちです。これはある意味、合理的な判断と言えるでしょう。しかし、その間に新しいサービスは爆発的に利用者を増やしていきます。
「安かろう悪かろう」で始まったサービスが、多くの人に使われることで経験を積み、技術を改善し、だんだんと品質を上げていくのです。そして、気がついた時には既存企業の市場まで奪ってしまう。これがイノベーションのジレンマです。
テレビとYouTubeから学ぶ変化の速度
厳密には教科書通りの事例ではないかもしれませんが、テレビとYouTubeにも似た構図があったと私は考えています。私と同世代の方なら覚えていると思いますが、昔のYouTubeは今のサービスとは大きく異なりました。画質は悪く、素人が撮った何を見せたいのか分からない動画も多かった。違法アップロードされたテレビ番組も大量にありました。
当時のテレビ局からすれば、「こんなものはまともなメディアではない」と思ったことでしょう。テレビはプロの出演者、カメラマン、編集者が大きなスタジオで作り上げるもの。一方、YouTubeは素人が家庭用カメラで撮った粗い動画で、編集も適当。品質を比べたら、勝負になりませんでした。
しかし、現在の状況はどうでしょう。若い世代の多くはテレビをほとんど見ず、YouTubeやTikTokを見ている人の方が圧倒的に多いのが現実です。最初は品質の低かった側が、利用者、お金、経験を集め、どんどん品質を上げていった。そして、既存のメディアが後から追いかける、あるいは没落していくという流れが起きています。
AI開発の「安かろう悪かろう」は本当に悪かろうか?
こうしたイノベーションのジレンマを考えると、私が格安AI開発の競合に怖さを感じた理由が見えてきます。今、AIを使ってシステムを格安で作る、月額も非常に安いという会社がどんどん出てきています。
エンジニアから見ると、正直、これには怖い部分があります。私自身、毎日AIにコードを書かせていますが、AIは指示したことに答えてくれるものの、人間が気づいていない問題まで先回りして解決してくれるとは限りません。要件の抜け漏れ、権限管理の不備、データの不正、バックアップの有無、障害対応など、人間がしっかり指示・設計しないと、画面は動いても本番では使えないシステムになりかねません。経験豊富なエンジニアほど、「AIを使ったからといって何でも簡単に作れるわけではない。そんな簡単な話じゃない」と思ってしまうのです。
もちろん、私はその競合会社のシステム提案の中身を見たわけではないので、本当に品質が悪いと断定することはできません。ただ、自分だったらその価格で同じ責任を引き受けるのは難しいだろうと感じています。
しかし、市場で勝つのは、必ずしも最も正しいことを言った会社とは限りません。お客様が最初に求めるのは、完璧な設計書ではなく、「とりあえず自分たちの業務が少しでも楽になるもの」かもしれません。私たちが要件定義をしっかり行い、責任範囲を明確にし、要件を整理している間に、相手は「来週には動くものを持ってきます」と言ってお客様の心を掴む可能性があります。お客様から見れば、後者の方が魅力的に映ることもあるのです。
経験や知識には大きな価値がありますが、同時に副作用もあります。危険や先のトラブルが見えてしまうため、逆に動きが遅くなってしまう。過去の失敗事例を知っているからこそ慎重になり、簡単に「できます」と言えなくなるのです。一方で、経験の少ない人はそうした怖さを知らないため、思い切って走れる。もちろん途中でつまずく会社もあるでしょう。しかし、全員が転ぶとは限りません。走りながら学習する会社もあれば、たまたま転ばずに案件を取り、利用者やお金を増やし、その資金でちゃんとしたエンジニアを雇って品質を上げていく会社も出てくるかもしれません。
努力せずともAIが進化する怖さ
もう一つ恐ろしいのは、AIそのものがものすごい速度で進歩していることです。今は研究者が細かく指示しなければ作れないものでも、1年後、あるいは半年後にはAIが自動的に、エンジニアが指示すべきところまで先回りして考えてくれる可能性も出てきています。
そうなった時、「経験があるから、うちはこの金額だ」と言い続けている会社はどうなるのでしょうか。最初は品質が低かった格安AI開発会社が顧客と実績を集めている間に、彼らが何も努力しなくても、使っているAIの性能そのものが上がっていく。気がついた時には、価格だけじゃなく品質でも追いつかれている——そんなことがかなりの速度で起きる可能性があります。これは、私たちが常に意識しておかなければならない現実だと感じています。
本当に怖いのは「自分の常識」
「安売りしない」という今の私の考えを捨てるつもりはありません。しかし、「安売りしない」という言葉が、古いコスト構造を守るための言い訳になっていないかは、常に自問自答しなければならないと思っています。
品質を守ることと、昔ながらの作り方を守ることはイコールではありません。大量の資料を作ることが必ずしも品質に直結するとは限らないですし、何でも会議で決めることが品質を保証するわけでもありません。AIで自動化できる工程がどんどん増えている中で、人間がずっと同じ方法を続ける必要があるのか。私たちも日々、常識や認識をアップデートさせなければいけないと痛感しています。
格安AI開発会社を見て、「そのうち失敗するだろう」と高をくくって笑っているだけでは危ない。本当に怖い相手は、あの格安の競合会社ではありません。それは、自分の過去の成功体験、これまでの経験からくる常識、エンジニアとしてのプライド、そして「今までのやり方を変えたくない」という気持ち。つまり、自分自身の「常識」こそが、最も警戒すべき相手なのかもしれません。
正直、今どちらが正解なのか、私にも分かりません。相手のやり方が無謀なのか、私のやり方が古いのか、あるいは慎重すぎるのか。おそらく両方の側面があるでしょう。しかし、一つだけ言えることがあります。それは、「自分が経験者だから大丈夫」と胡座をかいていられる時代では、もう全くないということです。
変化を受け入れ、品質を守りながら「壊す」勇気
経験を言い訳にせず、品質を守りながら、どこまで作り方を「壊せる」のか。新しいものにアップデートできるのか。これが、AI時代にエンジニアとして、そして事業主として生き残るための最大の課題だと私は考えています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。AI時代の変化に対応し、お客様にとって最適なソリューションを共に考えていきたいと思っています。IT活用や事業のDX、ホームページ制作についてお悩みでしたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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