先日、ある会社さんの社長とシステム開発に関する商談がありました。当初は加盟店を管理するシンプルなシステムの話だったのですが、話を進めるうちに、私のビジネスモデルそのものを深く問われることになったのです。失注よりも、その指摘が私にとって何倍も痛かった理由をお話ししたいと思います。
失注よりも痛かった「ビジネスモデルの否定」
50代で起業し、CloudLabを立ち上げた私にとって、一つ一つの商談は非常に重要です。今回も、お客様の課題を解決するために全力を尽くすつもりで臨みました。しかし、最終的に私が受け取ったのは、単なる価格競争での敗北ではなく、「あなたのビジネスモデルでは勝てない」という、根底を揺るがすような言葉でした。
肥大化したシステム開発、競合との圧倒的な価格差
元々は、加盟店の契約や会員番号発行、会費管理を行うシステムを想定していました。ところが、お客様の要望を伺ううち、話はどんどん広がり、材料注文、クレジット決済、発送指示、紹介キャッシュバック、保証書・認定制度、さらには加盟店同士の案件回しまで、機能は多岐にわたるようになりました。
結果として、これはもはや単なる顧客管理システムではなく、会員制Eコマースサイト、決済、受発注、加盟店制度運営をまとめた「基幹システム」と呼ぶべきものになっていました。お金や個人情報を扱う以上、セキュリティ対策、障害発生時の対応、データ消失、権限管理など、簡単には考えられない責任が伴います。私は当然、それらのリスクを考慮した上で提案金額を算定しました。
ところが、競合の会社さんは、私の提案の半分以下の価格で「半年間伴走します」と提案し、しかも簡単な試作品まで提示されていたのです。今後必要になる機能もほぼ全て対応すると説明されていたようで、価格だけ見れば完全に私の敗北でした。
社長からの厳しい指摘、そして突きつけられた問い
価格差について正直にお話ししたところ、社長から非常に厳しい、しかし的を射たご指摘をいただきました。要約すると、このような内容です。
- 「岩森さんは5社くらいの顧客から高い金額をもらえばいいという商売を考えているように見える」
- 「システムを作れる人間がなぜ5社としか付き合えないような商売を考えているのか。安くして多くの会社に使ってもらった方が、システムを使う意味があるのではないか」
- 「今のままでは、絶対に競合に勝てない」
商談に行ったつもりが、途中から私の経営コンサルを受けているような感覚になりました。提案しているはずが、逆に事業相談に乗ってもらっているような、不思議な状況です。
損したくない気持ちが、チャンスを遠ざける?
さらに社長は、私の「損したくない」という気持ちが強すぎるのではないか、と指摘されました。
- 「安く受けて赤字になったらどうしよう」
- 「障害が起きて責任を負うことになったらどうしよう」
- 「追加要望が増え続けたらどうしよう」
- 「一人会社で対応できなくなったらどうしよう」
もちろん、経営者として考えるべきことです。しかし、それが強すぎるために、逆にチャンスを遠ざけているのではないか、というのです。
「最初から損しないように価格を組み立てるから、実績のない会社なのに高価格になってしまう。高いから受注できない。受注できないから実績が増えない。実績が増えないから、さらにその価格を正当化できない。この悪循環に入っているのではないか?」
この指摘には、私自身も薄々感じていた部分を突かれ、非常に痛い思いをしました。
技術的な正しさが、顧客に伝わっていない現実
もう一つ、社長が指摘されたのは、「技術的な正しさが顧客に伝わっていない」ということでした。
私が「基幹システムは簡単ではない」「個人情報を扱うからセキュリティが必要」「AIで画面を作るだけでは本番運用は難しい」「例外処理やテストが重要」といった説明をしても、それは技術的には正しいかもしれません。しかし、お客様からすれば「安い会社ができると言っている」「AIで作って不具合が出たら直せばいい」という感覚なのです。
「なぜ岩森さんに頼むと何倍もの価格になるのか?」
これに対して「品質が違います」「設計が違います」「責任の持ち方が違います」と説明するだけでは、やはり弱い。お客様が具体的に何を得るのか、いくら損を防げるのか、どんな事故を避けられるのか、事業の成長がどう変わっていくのか。そこまで言語化できなければ、単に「高い人」に見えてしまう。まさにその通りだと、深く納得させられました。
「SaaS化」か「個別最適化」か、50代起業の葛藤
社長の指摘は正しいと感じましたが、だからといって今回の案件を、競合と同じような安価な値段で受けるべきなのかは別問題です。
もし安く受けるのであれば、私は受託開発会社ではなく、その加盟店管理システムを全国に販売するSaaS事業者になる必要があります。最初の一社は赤字でも良いかもしれませんが、そこで作ったシステムを10社、20社、あるいは100社に販売して初めて回収できるビジネスモデルです。そのためには、個別要件は断って共通機能に絞り込み、営業サポートや保守、セキュリティ更新を何年も続ける覚悟と体制が必要になります。
果たして、私はその「加盟店管理システム」を今後何年もの間、自分の主力商品として売りたいのか?全国の加盟店本部に営業したいのか?そのためのサポート部門を構築したいのか?正直なところ、今の段階ではそこまでの覚悟はありません。この1社を取るためだけに、SaaS事業を始めたふりをするのは危険だと感じました。それは事業投資ではなく、赤字の受託案件を「事業投資」と言い換えているだけになりかねません。
案件撤退の決断、そして見えてきた課題
熟考の結果、私はこの案件からの撤退を決断しました。競合が安すぎるから、という理由だけで撤退するのでは何も学べません。今回の経験を通じて、私に突きつけられた課題は、「そもそも今のCloudLabのビジネスモデルに勝ち筋があるのか」という問いです。
これまで私は「地方企業の外部IT部門になる」という考えで、業務理解、経営相談、システム開発、AI導入、保守、セキュリティまでを一手に引き受けることを目指していました。しかし、これは顧客にとって「何を買っているのか」が非常に分かりにくく、範囲も広いため価格比較も難しい。そして、一人会社である私には重すぎるモデルだと気づかされました。
「外部IT部門」というのは、私が仕事をする上での「思想」であって、お客様に売るべき「商品名」ではなかったのです。お客様に売るべきは、「この業務を6週間でこの状態にします」「この作業を自動化します」「見積もり作成時間を何時間から何分に短縮します」といった、具体的な成果なのだと痛感しました。
短期間、固定価格、固定範囲、完了条件が明確な案件で結果を出す。そして、複数の会社から同じ要望が出てきたら、初めて商品化やSaaS化を考える。今の私には、このアプローチの方が現実的だと感じています。
実績作りへの迷い:大型案件か、小さく明確な商品か
今回の商談は、正直かなり厳しいものでした。しかし、社長は私を否定したかったわけではなく、むしろ「能力があるのにもったいない」「技術はあるが商売の組み立て方が弱い」「今のままでは勝てない」ということを、本当に率直に、真剣に伝えてくれたのだと思います。だからこそ、余計に心に響きました。
競合に価格で負けたと言われるよりも、「あなたの商売の考え方では勝てない」と言われる方が、はるかに痛かった。案件から撤退することと、変わらないことは違います。この経験から、私の価格設計、商品設計、そして営業方法を変えなければならないと強く思いました。
今回一番怖かったのは、案件を失うことではありません。そもそも、今の自分のビジネスモデルに勝ち筋がなかったのではないか、ということに気づかされてしまったことでした。
実績が少ない起業初期に、赤字覚悟で大型案件を取りに行くべきなのか。それとも、責任の重い案件は一旦断り、小さく明確な商品から実績を作るべきなのか。50代で起業した私自身、今、本気で迷っています。この問いへの答えを、これからも探し続けていきたいと思います。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。今回の記事のような事業戦略に関するお悩みや、具体的なIT導入のご相談など、お気軽にお声がけください。
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