こんにちは、CloudLab代表の岩森です。
起業して間もない頃、あるいは新たな事業を立ち上げたばかりの頃、名刺交換や交流会などで必ず聞かれる質問があります。それは「結局、何屋さんなんですか?」「何をされているんですか?」という問いです。この問いにスパッと一言で答えられる人は、それだけで強い。例えば、「あの人はホームページ制作の人」「あの人は補助金申請に詳しい人」と紹介される方が、圧倒的にビジネスチャンスは広がります。頭では分かっていても、私自身、この問いに自信を持って答えきれない時期がありました。今日は、そんな起業初期のリアルな葛藤と、事業の「看板」をどう見つけていくかについてお話ししたいと思います。
他人の「看板多すぎ問題」に気づいて見えた、サンクコストの罠
まず、他の方の事業を見ていて、よく感じることがあります。それは「看板が多すぎる」という問題です。
例えば、ある大手メーカーで30年近く営業や商品企画、展示会運営、代理店開拓、若手育成など、多岐にわたる経験を積んできた方が独立したとします。本人からすれば、これらの経験は全て貴重な武器であり、30年のキャリアという一本の線で繋がっていると感じるでしょう。だからこそ、独立後も「中小メーカーの営業支援をします」「展示会出展をサポートします」「商品企画の壁打ち相手になります」「代理店開拓を支援します」「若手営業の育成もできます」と、あらゆるサービスを掲げてしまいがちです。
しかし、お客様の視点から見るとどうでしょうか。「結局、この人、何の人なの?」となってしまいかねません。紹介する側も「あの人、営業に強い人だけど、展示会も詳しいし、商品も分かるし…」と困惑してしまいます。どれも間違いではないのですが、どれも決定打に欠ける。なぜなら、本人の経験を羅列しているだけで、お客様の「一番痛い悩み」に刺さっていないからです。
これは、いわゆる「サンクコストの罠」とも言えます。長く培ってきた経験や実績を「もったいない」と感じ、全てを活かしたくなってしまう気持ち。私も痛いほどよく分かります。しかし、商売において本当に大切なのは、自分が何を経験してきたかよりも、相手が今何に困っていて、何ならお金を払ってくれるのか、という視点です。
例えば、中小メーカーの社長が本当に困っているのは、「営業支援」そのものではなく、「今の主力取引先に依存しすぎていて、このままでいいのか不安」という状況かもしれません。展示会を成功させたいのではなく、「名刺交換で終わってしまい、その後の商談に繋がらない」という悩みを抱えているのかもしれません。そうであれば、看板は「営業支援します」ではなく、「展示会で名刺だけ集めて終わっている中小メーカーのための商談化支援」と絞り込んだ方が、ずっとお客様の心に響く可能性が高まります。
他人のことを言いつつ、自分も「看板だらけ」だったという気づき
ここまで、人のことは冷静に分析できます。しかし、ふと自分に問いかけてみると、まったく同じことを自分もやっていた、いや、むしろ自分の方がひどかったと気づかされました。
私は元々、データ基盤という専門的な技術をメインに、会社員時代もフリーランス時代も働いてきました。独立当初は「このデータ基盤の技術があれば、大企業のデータ活用を支援できるはずだ」と信じ、大手企業にアプローチしましたが、結果は見事な門前払いでした。無名の個人事業主に、いきなり基幹システムやデータ基盤の相談が来るわけがありません。「あなたに頼む理由は何ですか?」と問われれば、当時の私には明確な答えがありませんでした。
それだけではありません。売上を立てなければと焦る中で、議事録作成AI、図面を読んで見積もりを作成するAIツール、ある士業の先生向けの書類仕分けツール、ホームページ制作、業務改善、AI活用支援…と、次々に「できること」を増やしていきました。まさに「看板屋さんを開けるぐらいの看板がある」状態だったのです。
人のことは「あの人、看板が多いな」「とっちらかっているな」と客観的に見えます。しかし、自分自身の事業となると、途端に客観視が難しくなる。自分のことは見えにくい、ということを痛感しました。
「絞る」か「探索する」か?起業初期のリアルな葛藤
では、すぐにでも「これだ!」という一つに絞り込めば良いのでしょうか。話はそう単純ではありません。特に起業初期においては、無理に絞りきるのも危険だと感じています。
「あれもできます、これもできます、何でも相談してください」という状態では、ただの「便利屋」になってしまい、事業として立ち行かなくなるリスクがあります。しかし一方で、今の段階で「私は塗装会社専門の図面AI見積もり屋です」とか「私は地域中小企業専門のAI導入支援です」と言い切れるかというと、まだそこまでは至っていません。
なぜなら、誰をターゲットにするべきか、そのターゲットが本当に何に困っているのか、何ならお金を払ってくれるのか、という部分がまだ完全には見えていないからです。絞りたいけれど、絞るための材料が足りていない。これが、まさに今の私の状態であり、課題です。
だからこそ、私は今、あえて少し広めに「システム開発をやっています」と名乗っています。ホームページ制作、AI導入、業務改善のためのITツール作成など、できることをいくつか提示する形です。これだけ聞くと「結局何してくれるんだ?」と思われるかもしれません。しかし、今の段階では、それで良い部分もあると思っています。
なぜなら、私の目的は最初から商品を売り込むことではなく、まず「相手の話を聞くこと」だからです。システム開発やAI、ホームページもやっています、と伝えると、相手が自身の困り事を話してくれることがあります。「いつもこの作業に時間がかかっていて…」「紙の書類が多すぎて大変で…」「社員がシステムを使ってくれなくて…」「社長の頭の中にしか業務知識がなくて…」といった話が出てきた時、初めて具体的な提案に入ることができるのです。この「相手の痛みを聞いてから提案する」という順番が、今の私には非常に重要だと感じています。
釣り場を探すように、現場で「大きな魚」を見つける
この状況は、釣りに似ているかもしれません。いきなり「私はこの魚だけを釣ります」と決めるには、まだ早すぎる。まずは色々な釣り場に行ってみて、どの池にどんな魚がいるのか、どの時間帯に食いつくのか、どんな餌に反応するのか、といった情報を見極める必要があります。
部屋の中で作戦会議だけして「よし、この魚を釣ろう!」と決めても、当然釣れません。まずは現場に行き、水の流れや魚影を見ながら、隣のベテランが何を釣っているのか観察する。時に隣の人だけ爆釣していて、自分だけ何も釣れないという辛い経験もありますが、そこから学ぶしかないのです。
私も今、その段階です。色々な方にお会いし、現場の話をじっくり聞く。小さく提案してみる、試しにツールを作ってみる。そして、その反応を見て、本当にお金を払ってくれるのか、継続して使ってくれるのかを見極める。そうやって実績を積み上げていけば、自ずと冒頭で言っていた「誰をターゲットにするべきか」「自分は何屋になるべきか」が見えてくるはずだと信じています。
ただし、この「探索」を言い訳にして、いつまでも「何でも屋」でい続けてはいけません。探索するなら、きちんと記録を残す必要があります。どんな相談が多かったか、相手の目が輝いたのはどの提案だったか、どの仕事がお金に繋がり、紹介に繋がったか。逆に、どんな仕事は割に合わなかったのか、自分が勝てそうだと感じたのはどの分野だったか。広げるだけでなく、広げながら反応を見て、反応があるところに少しずつ寄せていく。この地道な作業が、今の私には必要だと感じています。
「〇〇だったらCloudLab」と呼ばれる日を目指して
サンクコストの罠は、「もったいないからやめられない」という単純な話だけではありません。もっと深いところに、「過去の自分を活かしたい気持ちが強すぎて、今のお客様が見えなくなる」という側面があるように思います。経験があるからこそ、作れるからこそ、頑張ってきたからこそ陥りやすい罠です。
しかし、色々なことができることと、それが「売れる」ことはやはり違います。最終的には、お客様の具体的な「痛み」を解決できる、明確な「看板」を持つ必要があります。早く「あなたの会社の〇〇という痛みを解決する〇〇屋です」と自信を持って名乗れるようになりたい。そして、「〇〇だったらCloudLab」とお客様に言っていただける状態を、一日も早く作りたいと思っています。
起業初期の私は、まだ「何屋です」と言い切れる段階ではありません。しかし、それは「絞れていない」のではなく、「絞るための材料を集めている」段階だと捉えています。この探索と検証を繰り返しながら、お客様にとって本当に価値のある専門性を確立し、事業の看板を磨いていきたい。これは、私自身への現在進行形の宿題であり、使命でもあります。
もし今、ご自身の事業の「看板」について悩んでいらっしゃるなら、あるいは「何から手をつけていいか分からない」と感じているなら、ぜひ一度お話を聞かせてください。お客様の「痛み」に寄り添い、最適な解決策を一緒に見つけるお手伝いをいたします。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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