CloudLab代表の岩森です。
今回は、期待していた新規事業のシステム開発案件で「失注が確定した」お話です。
厳密に言えば、先方から正式に断られたわけではありません。競合他社の存在を知った後、私の方から最終的な見積もりと提案書の提出を辞退させていただきました。
50代で起業し、まだ実績の少ない一人会社にとって、継続的なご支援につながる可能性のある大型案件を逃すのは非常に痛手です。実際、現場へ何度も足を運び、経営者様や現場スタッフの方々にヒアリングを行い、業務フローを整理して動くプロトタイプまで作成していました。
現場の方々にも喜んでいただき、うまく稼働すれば双方がハッピーになるイメージを描いていた案件です。しかし、最終的に撤退を決めました。今回はその理由と、そこから得た学びについて正直にお話しします。
1. 経営姿勢と品質に対する「波長」が合わなかった
検討の途中で、非常に低価格な競合他社が参入してきました。当社が想定していた費用とは倍以上の開きがあり、その価格に合わせると完全に赤字になってしまう水準です。
当初は「どれだけ深く考えて設計しているか、提案書で違いを見せつけて挽回しよう」と考えていました。しかし提案直前、改めて経営者様とお話しする機会があり、会話の端々から「競合の格安提案で十分と考えておられる」ニュアンスを感じ取りました。
ここで重要なのは、どちらが良い・悪いという話ではありません。
先方の社長は行動力が非常に高く、「多少の問題があっても、まずは安く早く始めて走りながら考える」というタイプです。変化の激しい市場で事業を成長させてきた経営者として、それは大きな強みだと感じます。
一方の私は、「事前に見えているリスクや危険の穴をできる限り塞ぎ、安全な状態で納品したい」と考えるタイプです。データ不整合のリスク、権限管理、将来的なデータ増加への耐性、セキュリティなどを無視することができません。
前提となる価値観やスピード感が根本から違っていたのです。この状態でこちらが気合の入った提案書を出したところで響きませんし、格安業者に負けたくないという私自身のプライドを満たすためだけの作業になりかねないと考え、提出をやめました。
2. AI時代における「ノウハウ流出」のリスク
2つ目の理由は、提案書に書くノウハウの流出リスクです。
AIツールが普及した現代において、単に機能を組み立てるだけの手順は、以前ほど参入障壁にならなくなりました。現在のシステム開発や業務改善で最も大きな価値となるのは、「どのような業務リスクや論点をあらかじめ想定できるか」という知見です。
業務の穴や考慮すべき論点を提案書として詳細に明文化してしまうと、相手方はその文章をそのままAIに読み込ませることで、類似の設計案を作成できてしまいます。
もちろん、提案書1枚で運用まで完璧にこなせるほど現場は甘くありません。実際の施工や運用サポートで必ず差は出ます。しかし、既に相手が競合に傾いている状況で、当社が長年蓄積してきた知見や論点を無償で手渡し、競合の参考材料にされる必要はないと判断しました。
3. 契約前のやりすぎと「サンクコストの罠」
3つ目の理由は、契約前の段階で手厚く対応しすぎていた点です。
ヒアリングを重ね、プロトタイプまで作って見せたのは、「ここまでやれば価値が伝わるはずだ」という焦りや意気込みがあったからです。しかし契約前である以上、それらの作業に対する費用は発生していません。
ここからさらに数十時間を投じて精緻な提案書を作ったとしても、受注確率は極めて低い状態でした。営業活動というより、持ち出しのボランティアになってしまっていたのです。
「ここまで時間をかけたのだから、形にしないともったいない」と考えてしまうのは、典型的なサンクコスト(埋没費用)の罠です。起業直後の1人会社として、過去に投じた時間に囚われて追加のソースを垂れ流すわけにはいきません。これ以上の時間投入はしないと割り切ることにしました。
失敗を美化せず、商品設計の次の一手へつなげる
今回の件を「自分の信念を曲げなかった良い失注だった」などと美化するつもりはありません。結果として受注できなかったのは事実であり、そこには当社の反省点が明確に存在します。
最大の問題は、営業の早い段階で、先方の予算感や求めている品質レベルのすり合わせができていなかったことです。そして、正式契約前の段階で無償での対応を踏み込みすぎてしまったことです。
安さのために安全性を捨てて受注することも、赤字覚悟で受けることもできません。後からトラブルが発生してお互いに不幸になる未来が見えている以上、引くという判断自体は間違っていなかったと思います。しかし、手前のプロセスには改善すべき課題が多くありました。
今後は、いきなり大きな完成形を提案するのではなく、以下のようなステップを整える必要があると感じています。
- 最初のリスク洗い出しや課題整理を独立させた「有料診断サービス」を用意する
- 責任範囲を小さく限定し、明確にした低価格パッケージを作る
- 早期に予算と重視する軸(スピード・価格・安全性)を確認する仕組みをつくる
50代での起業。大きな案件がそう簡単に取れるほど甘くはありません。ですが、今回の失敗で売り方と商品設計の課題がはっきりと見えました。この経験を次の具体的な商品改善につなげていきます。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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