先日、ある地域企業の社長との商談で、私は大きな課題に直面しました。50代で起業し、一人で事業を営むCloudLab代表として、自分の仕事の進め方や提供すべき価値について、深く考えさせられる一日でした。
期待から一転、商談で突きつけられた「一人会社の壁」
その企業は、新たに別会社を立ち上げ、加盟店を増やしていくという大きな事業計画をお持ちでした。私は、その新事業の基幹システムをどう構築するかについて、提案の機会をいただきました。
加盟店の申し込みから、契約、支払い、研修、そして将来的なEC連携まで、事業が拡大すればするほど、手作業では到底回らなくなることは目に見えています。そこで私は、まずは事業の核となる「申し込み、課金、把握」という最小限のループをシステム化し、効率的な運営基盤を築くことを提案しました。
私の提案は、社長から大変高く評価していただきました。業務への深い理解、的確なシステム設計、AI活用の可能性、さらには会計の知識まである点を、「岩森さんにお願いしたい」「この仕組みができたら絶対楽になる」「発想がすごい」と、嬉しいお言葉をたくさんいただきました。手応えを感じ、良い方向に進んでいると確信していました。
ところが、価格の話になった瞬間、空気は一変しました。
私は、これまで大企業でのシステム開発の経験から、むしろお得だと感じる月額での開発・保守費用を提示しました。しかし、地方の中小企業、特にこれから立ち上げる新規事業の社長にとって、その金額は「めちゃくちゃ高い」と感じられたようです。一括で上限を設けたい、月額ならこのくらいなら…という感覚のズレを痛感しました。
そして、さらに私を打ちのめしたのが、社長から直接投げかけられた「岩森さんがいなくなったらどうなるんですか?」という言葉でした。
私が病気になったり、万が一のことがあったりしたら、このシステムはどうなるのか。私一人しか触れない仕組みになってしまったら、会社の心臓部を任せるには不安だ、と。それは、まさに一人会社である私の最大の弱点を突くものでした。どれだけ私の能力や提案内容を評価していただいても、「この人が倒れたら終わり」という状態では、会社の基幹を任せるわけにはいかない。これは、本当にその通りで、顧客からすれば当然の不安です。一人会社の信頼性の壁を、まざまざと突きつけられた瞬間でした。
「AIで安く作れる」という競合と、見落とされがちな真の価値
さらに厄介な話も耳にしました。別の会社が「AIを使えば安く作れますよ」と提案しているというのです。しかも、その会社はシステム開発専門ではなく、SNS運用やWeb集客が主な業務だそうです。
確かに、今のAIを使えば、それらしい画面や簡単な仕組みなら、以前よりもずっと手軽に作れるようになりました。顧客からすれば、「どちらもシステムを作れると言っているなら、安い方が魅力的」と感じるのも無理はありません。私も一瞬、「これはもう、行き詰まったのではないか」と弱気になりました。
しかし、私が本当に恐れているのは、その「安さ」の裏側です。
システムは、見た目だけ作れれば良いわけではありません。障害が起きた時に誰が対応するのか。個人情報や決済データをどう扱うのか。データバックアップは万全か。3年後に別の会社に引き継ぐ必要が出た時に、それが可能か。社長が見たい数字が正しく出力されるか。現場が使い続けられるか。これら「事業が止まらないように設計する」という視点が、AIで安く作ります、という言葉には含まれていないことが多いのです。
この「安く作れます」と「事業が止まらない設計」の違いを、お客様に理解していただくのは容易ではありません。しかし、ここにこそ、私たちのような専門家が提供すべき真の価値があるはずだと、私は考えています。
弱気からの再考:一人IT会社の勝ち筋と、信頼の担保
商談後、私は深く考え込みました。地方企業の予算感、一人会社への発注不安、AI競合の台頭。この状況で、CloudLabのような小さなIT会社に勝ち筋はあるのか。一時は「積んでるんじゃないか」とまで思いましたが、完全に道が閉ざされているわけではない、という結論に至りました。
私が売るべきものは、単に「システムを作ります」というだけでは足りません。AIで安く作る会社と同じ土俵に乗ってしまえば、価格競争に巻き込まれるだけです。そうではなく、「何を作るべきで、何を作らないべきか」を社長と一緒に整理すること、これこそが私の強みであり、勝ち筋だと再認識しました。
今回の商談でも、当初は「加盟店専用ポータルも必要」「EC連携も」「LINE配信も」と多くのアイデアが出ていました。しかし、全てをいきなり作ろうとすれば、費用も時間もかかり、何より重くて使いにくいシステムになってしまいます。だからこそ、私はまず「申し込み、課金、把握」という最小限のループに絞り込む提案をしました。今本当に必要なものは何か、逆に今は作らない方が良いものは何か。ゼロから全てを作るのではなく、外部サービスを賢く活用したり、人間の運用で残すべき部分を見極めたりする。こうした整理ができることこそが、私の提供できる本質的な価値です。
そして、一人会社のリスクに対する不安を解消するためには、口で「大丈夫です」と言うだけでは不十分です。具体的な担保が必要になります。
- 運用手順書や障害対応手順書の作成
- 他のエンジニアでも引き継ぎ可能なドキュメントの整備
- 保守範囲の明確化
- 万が一、私が倒れた場合の引き継ぎ条件の取り決め
つまり、「私しか分からない」という状態を極力作らないようにすること。これが、これからの私の提案には絶対に必要だと痛感しました。「私がいなくても、事業が止まらないように設計します」という具体的な形を提示していくことが、お客様の信頼を得る上で不可欠だと考えています。
50代起業のリアルと、これからの挑戦
今回の商談は、正直かなり精神的に疲れました。評価され期待されているのに、最終的に「一人会社は怖い」と言われるのは、メンタルに響きます。しかし、これは50代で起業した私のリアルであり、信用も実績も体制もまだ十分にない初期段階では、避けて通れない課題なのでしょう。おそらく、多くの先輩起業家や個人事業主の方々も、同じような壁にぶつかり、乗り越えてこられたのだと思います。
目の前にはチャンスがある。あと一歩で掴めそうなのに、どうすればその不安を払拭できるのか。安請け合いして全てを背負うのか、できることできないことを明確にするのか、価格を下げるのか、提供する範囲を絞るのか、そして信頼をどう担保するのか。これこそが、50代起業の本当の勝負どころだと感じています。
私の真の競合は、安いAIサービスだけではありません。お客様の心の中にある「この人に任せて本当に大丈夫か」という不安です。その不安に対し、「私は優秀です」「大丈夫です」と言うだけでは足りない。具体的な「私がいなくても事業が止まらないように設計します」という担保をどう提供していくか。これが今の私に突きつけられた最大の課題です。この課題から逃げず、真正面から向き合い、乗り越えていきたいと思っています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。今回の記事のような課題や、IT活用に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
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