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AI・IT活用

AIに何十回も相談して、人間には一度も相談していなかった理由|経営判断におけるAIと人間の使い分け

AIに何十回も相談して、人間には一度も相談していなかった話

先日、私(岩森)はある大きな案件からの撤退を決めました。

その判断に至るまで、私はChatGPTやClaude、Geminiといった生成AIに、それこそ何十回も相談を重ねていました。

「この採算で本当に合うのか」
「要件が固まっていない状態で開発期間と金額だけを決めたら、どんなリスクが発生するのか」
「相手方の予算感や考え方と、こちらの前提は一致しているのか」

AIに対して「岩森さん、またその話ですか。いい加減にしてください」と言われかねないほど、条件を変えたりリスクシナリオを出させたりして徹底的に分析させました。最終的にAIが出した結論も「撤退した方がいいのではないか」というものでした。

この撤退判断自体は、今振り返っても間違っていなかったと思っています。安すぎる価格で重すぎる責任を負い、しかも仕様が不透明なまま受託していたら、一時的な売上にはなっても、その後の事業運営はかなり苦しくなっていたはずだからです。

しかし、この件について「ある人間」に話したとき、私は自分の大きな盲点に気づかされることになりました。

ある士業の先生との対話でハッとした瞬間

撤退の決断を下したあと、守秘義務に抵触しない範囲で、日頃からお世話になっているある士業の先生に事の経緯をお話しする機会がありました。

私としては「それは大変でしたね」「残念でしたね」といった労いの言葉で終わるのだろうと思っていました。しかし、その先生の口から飛び出してきたのは、全く予想外の言葉や提案だったのです。

「岩森さんが開発されたあのAI見積もりシステム、あれは絶対に世に出した方がいいですよ」
「経営者に直接売り込むより、現場で困っている責任者の方に見てもらった方が響くのではないでしょうか」
「完成品をいきなり販売するのではなく、別の信頼できる会社でモニターとして試してもらうのはどうですか?」
「自治体や教育機関などでも、その技術が活かせる場所があるかもしれません」

先生は、私が作ったシステムの価値や、今後の展開に向けた具体的な代替案を次々と提示してくださったのです。

その時、私はハッとしました。
「自分はAIには何十回も相談したのに、人間には誰ひとりとして相談していなかった」と。

AIと人間、思考プロセスの根本的な違い

AIの撤退分析が間違っていたわけではありません。数字の試算やリスクの洗い出しにおいて、AIの回答は非常に的確でした。

では、AIと人間の相談にはどのような違いがあったのでしょうか。私自身が痛感したポイントは次の2点です。

1. AIは「与えられた問い」を深掘りし、人間は「新しい問い」を投げてくる

AIとのやり取りにおける問いは、始終「この案件を受けるべきか、撤退すべきか」という二者択一の軸上にありました。AIはその「与えられた問い」に対して、極めて深く、論理的に掘り下げて分析してくれます。

しかし、その問いを設定しているのは自分自身です。
自分が落ち込んだ状態や視野が狭くなった状態で事情を説明すると、どれだけ「忖度せずに客観的に評価してほしい」とプロンプトで指示を出したとしても、説明文そのものに私自身の偏った見方や悲観的な前提が紛れ込んでしまいます。

言ってみれば、AIは私と同じ暗いトンネルの中にいて、その中で非常に性能の高いライトを照らしてくれている状態です。ライトの光は明るいですが、見ている方向は私が向いている方向と同じです。

一方、人間は平気で頼んでもいない方向からボールを投げてきます。
「その案件を断るとして、作った仕組みは別の形で他社に提供すればいいのでは?」と、キャッチボールをしていたはずが、急に横の畑からボールが飛んでくるような感覚です。

「そもそも出口は後ろにありますよ」と、自分が全く気づいていなかった前提そのものをひっくり返す視点をくれるのが、人間との対話の面白さであり強みだと感じました。

2. 人間は表情や空気感から「視野の狭さ」を察知する

どれだけAIの性能が上がったとしても、AIは基本的に冷静かつロジカルにデータを処理します。
これに対して生身の人間は、私の表情や声のトーン、醸し出している雰囲気から「あ、今の岩森さんは焦っているな」「視野が狭くなっているな」という状態を感じ取ってくれます。

そして、正論をそのままぶつけるのではなく、少し角度を変えた別の見方や、前向きになれる選択肢を差し出してくれることがあります。

もちろん、人間への相談が常に正しいとは限りません。根拠のない精神論や気合いだけで押し切ろうとするアドバイスに困ることもあります。AIと人間の双方に、それぞれ得意・不得意があるのです。

AIは「副社長」、人間は「社外取締役」

今回の体験を経て、私は経営におけるAIと人間の役割分担を次のようにイメージするようになりました。

  • AIの役割(副社長):数字の試算、リスク評価、論点の整理、選択肢の細分化など、与えられたアジェンダを徹底的に構造化・分析すること。
  • 人間の役割(社外取締役):自分が無意識に置いている前提を疑うこと、全く別の角度から問いを投げ直すこと、視野狭窄に陥っていることに気づかせてくれること。

決断を下す主体はあくまで経営者自身ですが、AIという優秀な副社長に実務的な分析を行わせつつ、人間という社外取締役に大きな視点のチェックをお願いする。このような組み合わせが、変化の激しい現代においてバランスの良い判断を生むのではないかと感じています。

1人で抱え込まないことが、会社の未来を守る

撤退の判断自体は覆りませんでしたが、人間と話したことで「撤退した後に何をするか」という次の景色がはっきりと見えてきました。

経営者、特に50代での起業など経験を重ねてきた立場になると、「大きな決断ほど1人で抱え込んで決めるのが筋だ」「人に頼るのは弱みを見せることだ」という変なプライドや固定観念が邪魔をすることがあります。私自身も、どこかでそうした思考に陥っていたのかもしれません。

しかし、自分のプライドを守ることと、会社の未来を守ることは全く別の話です。

手元にいつでも相談できるAIがいる時代だからこそ、意識的に生身の人間に話をしてみる。そうすることで、自分がずっと同じ問いの周りをぐるぐると回っていたことに気づかされることがあります。AI時代だからこそ、人間との対話の価値がより一層際立つのではないかと思います。


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