先日、ある企業にAI研修についてのヒアリングへ伺ってきました。
きっかけは、地域の勉強会で「AI研修を受講したことで、年間数百万円かかっていた人事系システムを自社で作り替え、内製化した」という話を聞いたことです。もし本当なら、中小企業のAI活用成果としてこれ以上わかりやすい事例はありません。気になった私は、懇親会で名刺交換をさせていただいた担当者の方にすぐにご連絡し、詳しくお話を聞かせていただきました。
実際に話を伺ってみると、AI活用の華々しいイメージとは異なる「泥臭くも極めて現実的な成功の形」が見えてきました。
置き換えたのは「一部の機能しか使っていない」高額クラウド
今回、自社開発への置き換えに取り組まれた企業が利用していたのは、人事情報や社員の評価などを管理するクラウド型のタレントマネジメントシステムでした。利用料は年間200万円ほど。
しかし、多機能なパッケージソフトであるにもかかわらず、社内で実際に使っていたのは大量にある機能のごく一部だけだったそうです。パッケージ契約である以上、不要な機能があるからといって安くなるわけではありません。さらに、他社製システムとの連携もしておらず、契約更新のタイミングで値上げの提示もあったとのこと。
「自分たちが実際に使っている数個の機能だけでいい。それをAIを使って自分たちで作り直せないか」
そう考えたのが、AI内製化プロジェクトの始まりでした。
ここで私が非常に重要だと感じたのは、「AIの性能がすごかったから成功した」わけではないという点です。今回の対象システムには以下の特徴がありました。
- 既存システムからデータを外部出力(CSV等)できた
- 他の基幹システムと複雑なデータ連携をしていなかった(完全独立)
- 万が一止まっても、全社の日常業務が即座にストップするリスクが低かった
つまり、最初に「AIで置き換えやすく、失敗してもリスクが少ない業務」を的確に選定していたことが、成功の最大の要因でした。
「自力で内製化」の真相——実は9割8分を講師が作っていた
ヒアリングを進める中で、最も印象的だったのは「開発の実態」です。
研修を受けた非エンジニアの社員が、プロンプトを入力して翌日からスイスイとシステムを作り上げた……というわけではありませんでした。担当者の方の言葉をそのまま借りれば、「最初のシステムの9割8分くらいは、講師の方に作ってもらった」のが現実だったのです。
研修は全12〜13回(各2時間)ほどで進行し、講義の中でAIの基礎や要件定義、プロンプトの書き方を学びつつ、受講者が業務上の要望を講師に伝えていました。講師はそれを持ち帰り、AIを駆使してベースとなる画面やシステムを試作。次の研修で受講者がその画面を見ながら「ここをこうしてほしい」とフィードバックを行い、自社専用の形へ仕上げていったそうです。
「研修を受ければ、プログラミング未経験でも一人で業務システムを作れる」と期待しすぎると危険です。しかし、私はこの話を聞いて、「これこそが中小企業にとって最も現実的なアプローチだ」と強く感銘を受けました。
「補助輪付き内製化」という現実的な手法
私はこのやり方を「補助輪付き内製化」と呼びたいと思います。
いきなりプログラミング未経験者に「AIツールがあるから今日から一人で自転車に乗って(システムを作って)」と言っても転んでしまいます。最初は専門家に後ろを支えてもらい、一緒に走りながら少しずつ手を離してもらう必要があります。
最初のベース部分は専門家がAIを活用して素早く構築する。しかし、システムを納品して終わりではなく、社員も打ち合わせに毎回参加し、自分たちの業務システムを「生きた教材」としてAIでの修正方法を学ぶ。
「画面の表示幅を変える」「入力項目の順番を並べ替える」「閲覧権限を調整する」といった小さな改修から社員自身が手を動かし始め、徐々に自分たちでメンテナンスできる範囲を広げていく。これなら挫折するリスクを大幅に減らせます。
一般的なAI研修では、「ChatGPTでメール文面を作成してみましょう」「議事録を要約してみましょう」といった汎用的な演習で終わりがちです。もちろん基礎としては大切ですが、受講後に「AIってすごいね」という感想しか残らないケースも少なくありません。
今回の事例の価値は、何時間教えたかではなく、「研修終了後に、年間コストを削減できる実際の業務システムが手元に残った」という点にあります。
なぜ成功したのか? 5つの必須条件
今回のヒアリングを通じて、中小企業がAIでシステムを内製化・改善する際に必要な条件を5つに整理しました。
- 置き換える経済的合理性がある(高額な固定費がかかっており、投資回収の計算が立つ)
- 使っている機能が限定的である(膨大な多機能システム全体を一度に置き換えようとしない)
- 既存システムからデータを出力できる(過去の業務データを取り出せなければ移行できない)
- 他の基幹システムから独立している(他システムとの連携が複雑なほどハードルが上がる)
- 専門家による開発支援と手厚い伴走がある(単なる座学講義ではなく一緒に作る体制がある)
また、今回の企業には社内にITインフラを管理できる専門部署があり、セキュリティやサーバー運用、バックアップなどの安全面が担保されていました。「画面や機能を作れること」と「業務システムとして安全に運用できること」は別問題です。セキュリティや個人情報の取り扱いといった専門的な領域については、プロの助言を受けながら進めるのが不可欠です。
道具を教えるだけでなく、成果物を残す研修を
私自身、CloudLab代表・岩森として、今後は地元・近隣企業に向けたAI導入支援や研修に力を入れていきたいと考えています。その際、単にChatGPTやClaudeの使い方を説明するだけの講座にはしたくありません。
「自社が今、何に時間とお金を使っているのか」
「どの業務が負担になっていて、どのツールが高すぎるのか」
経営者の方々と膝を突き合わせて課題を整理し、AIで改善しやすく効果が数字で見えるテーマを1つ絞り込む。そして研修期間中に、実際に現場で使える成果物を伴走しながら一緒に作り上げる。
完全な外注(丸投げ)でもなく、無理な完全自走(放置)でもない。その中間にある「補助輪付き内製化」の手法こそが、地域の中小企業にとって最も確実で実りあるDXの第一歩になると確信しています。
社内で当たり前のように払い続けている月額ソフトの費用や、手作業で時間がかかっている業務はありませんか。まずは小さな棚卸しから始めてみてください。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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