先日、地域の経営者や事業者が集まる交流会とその後の懇親会に参加した際、同じ日に非常に興味深い、そして対照的な2つのAI活用事例を聞く機会がありました。
ひとつは「AIを使ってみたものの、仕事では全く役に立たなかった」という話。もうひとつは「年間数百万かかっていたシステムをやめ、自分たちでAIを使ってシステムを回収・運用できるようになった」という話です。
同じAIという技術を使っていながら、なぜここまで結果に差が出るのか。そして、顧客自身がAIを使ってシステムを直せるようになった時代に、私たちシステム会社やITの専門家は一体何を売るべきなのか。自社の事業を見つめ直す大きなきっかけとなりました。
対照的な2つのAI活用事例
事例1:Claudeで添削してみたが、実務では使えなかった
1人目の方は、高校生の探求学習を支援されている方でした。約200人の生徒が考えた学習の「問い」を添削・アドバイスするために、個人でAI(Claude)を試してみたそうです。
しかし、返ってきた答えはどれも似たり寄ったりの一般論で、深みがない指摘ばかり。結局、実際の指導には使えなかったとおっしゃっていました。
これはAIの性能不足だけが原因ではありません。AIに十分な前提情報——「過去に高く評価された指導例」「学年ごとの評価基準」「どのような観点で深掘りさせたいか」などの文脈——を与えずに「この問いを良くして」と頼めば、AIが一般的な無難な回答を返すのは当然だからです。
単にAIの操作方法(プロンプトの打ち方など)を知っていることと、それを実際の仕事で使える「仕組み」に落とし込むことの間には、大きな距離があります。業務の文脈を整理し、評価基準を定め、AIに正しく渡す準備ができて初めて実務で機能するのです。
事例2:高額SaaSをやめ、アプリ構築後に自分たちで改修
もうひとつの事例は、ある会社の人事責任者の方から聞いたお話です。
その会社では以前、タレントマネジメントシステムに年間数千万円規模の費用を払っていました。しかし、AIに詳しい外部の専門家に依頼して自社専用のアプリを構築してもらい、使い方のレクチャーを受けたところ、その後の軽微なシステム変更は自社内でAIを使って対応できるようになったそうです。
もちろん、専門知識のない社員がゼロから高額システムを代替するアプリを作ったわけではありません。初期の業務整理や基礎的な仕組みの構築は専門家が行っています。
それでも、従来の「画面の文言を変えたい」「入力項目を1つ増やしたい」といった作業のたびにシステム会社へ見積もりを依頼し、発注して納品を待つという時間とコストの無駄がなくなったインパクトは絶大です。
専門家は不要になったのか?役割が変わったのか?
システム開発会社を経営する私(岩森)にとって、顧客が自分でシステムを改修できるようになるという変化は、一見すると「仕事が奪われる」恐ろしい話にも思えます。
しかし、詳しく紐解いてみると、専門家が不要になったわけではありません。専門家に求められる「役割」が変化したのだと気づきました。
これまでのシステム会社は、顧客が触れる範囲をあえて狭くし、ちょっとした変更が発生するたびに改修費をもらうビジネスモデルが主流でした。しかし、AIやノーコードツールの普及により、顧客が自分で対応できる範囲は確実に広がっています。
今後、顧客自身でできることまで囲い込んで手離れを悪くするスタイルは価値を失っていくでしょう。これから専門家に求められるのは、すべてを抱え込むことでも放任することでもなく、「どこまでを顧客に委ね、どこからを専門家が守るか」という境界線を設計することです。
「境界線の設計」という新しい役割
では、具体的な「境界線」とはどのようなものでしょうか。
- 顧客自身で内製対応できる領域
- 画面の文言変更やデザインの調整
- 日常的な入力項目の追加・変更
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簡易な集計ルールや表示条件の変更
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専門家が管理・担保すべき領域
- データベース構造の設計と整合性の保全
- セキュリティ対策や権限管理
- 外部システムとの連携設計
- 万が一の障害対応やバックアップ体制
安全に内製化できる範囲をしっかり見極めて設計し、現場で運用できるように整える。これこそが、これからのIT専門家に求められる本当の価値だと考えています。
これはAI研修や導入支援でも同じです。ツールの使い方を教えるだけでは、研修が終われば「便利だったね」で元の業務に戻ってしまいます。「自社のどの業務に、どのような境界線でAIを組み込むか」を伴走して設計することが不可欠です。
まとめ:AI時代の開発現場で私たちが担うもの
私自身、自社内でもAIを活用した開発基盤の構築や、図面読み取り・自動見積もりシステムの開発などに取り組んでいます。AIにコードを書かせることで試作のスピードは飛躍的に上がりました。
しかし、実際の現場で絶対に間違った数値を出さない安全性を確保し、実用に耐えうるシステムへと仕上げる作業は、AI任せでは決して完結しません。
「AIでアプリを作れること」と「現場で責任を持って運用できること」は別物です。だからこそ、私たちが提供すべきものは単なるプログラミング作業ではなく、業務を作り替えるための「設計者」「監督者」としての価値だと確信しています。
一人で仕事をしていると、AIや画面に向き合う時間が長くなりがちですが、地域の経営者の方々と直接話すことで、こうした現場の生の空気や新しい課題が見えてきます。今回いただいた気づきを、今後の支援にもしっかり還元していきます。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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