自分のサービス価格や見積もりを決めるとき、AIに相談してみたことがあります。
「20年以上のIT業界での経験があり、現場の業務分析から会計、システム構築まで一貫して対応できる」といった自分の経歴や強みを入力し、「この内容でこの金額の見積もりは妥当でしょうか?」と尋ねてみるわけです。
するとAIは、「あなたのスキルと実績を考えれば、その価格は安すぎます」「もっと高く評価されるべきです。この内容なら〇〇万円が妥当なラインです」といったように、非常に論理的で説得力のある回答を返してくれます。
言われた瞬間は、正直かなり気分が良いものです。自分の過去の苦労やスキルを正当に認められたような気になります。
しかし、その金額を実際に地域の中小企業へ持っていくと、相手の反応が芳しくなかったり、話がそこで止まってしまったりすることがあります。
ここで初めて気づくのです。AIが示してくれた「筋の通った価値」と、実際の市場で「本当にお金が支払われる価格」はまったく別物なのだ、と。
真実が持つ「3つの不利」と作り話の安さ
歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、あるインタビューの中で「真実には3つの不利がある」という話をしています。
- 高くつくこと(真実を知るには時間・労力・検証の手間がかかる)
- 複雑であること(単純な一言では説明できない条件や文脈がある)
- 痛みを伴うこと(自分の見立ての甘さや間違いに向き合わなければならない)
私の見積もりの話で言えば、AIに「このサービスはいくらが妥当か」と聞くだけなら数十秒で答えが得られます。しかし、「本当に売れる価格」を知ろうと思えば、実際に顧客へ提案し、断られたり返信が来なかったりするリスクを負いながら反応を見るしかありません。真実を得る作業は、AIに聞くよりはるかに「高くつく」のです。
また、真実は常に複雑です。「良い商品なら必ず売れる」と言い切る方が分かりやすくて気持ちが良いですが、現実には、いくら良い商品であっても相手に予算がないことや、信頼関係が構築できていないために見送られることがあります。
そして何より、真実は痛みを伴います。「自分のサービスは、自分が思っていたほど市場から求められていなかった」という現実を見るのは辛いものです。
それに対して、「作り話」や都合の良いストーリーは安く作れ、いくらでも心地よくできます。「あなたは正しい。市場にを見る目がないだけだ」と言われる方が、精神的にははるかに楽だからです。
AIはなぜ「気持ちいい答え」を返すのか
ここで誤解してはならないのは、AIが意図的に人間を騙そうとしているわけではないという点です。
AIは与えられた前提に基づいて、最もらしく説得力のある文章を組み立てるのが非常に得意です。私が「この技術力でこの価格は安すぎませんか?」と問えば、AIはその前提に沿って「安すぎる理由」を巧みに補強してくれます。逆に「高すぎますか?」と聞けば、高すぎる理由を論理的に説明してくれるでしょう。
つまり、AIの回答にはこちら側の問いかけや希望的観測が強く反映されるのです。
自分にとって都合の良い前提を入力し、AIがそれっぽい説明を付けて返し、それを見て「やっぱり自分の考えは正しかったんだ」と確信してしまう。一見すると第三者から客観的なお墨付きをもらったように見えて、実際は自分の考えをAIに補強してもらっただけに過ぎない——そうした状況が簡単に起こり得ます。
文章やアイデアなどの「生成コスト」は劇的に下がりましたが、その内容が正しいかどうかを確認する「検証コスト」は下がっていません。100通りの説得力あるストーリーを一瞬で作れたとしても、その裏付けをとる作業には膨大な時間と労力がかかります。
現実のビジネスでAIとどう付き合うか
私は普段、地方の中小企業向けにDX支援やAI活用のお手伝いをしています。仕事の中でAIを活用する場面は多々ありますし、文章の下書き作成やアイデアの整理、複雑な資料の要約などにおいてAIは極めて優秀な道具です。
しかし、契約条件の確認や税務・法律に関わる判断、実際の見積もり算出、そして顧客の実態把握といった場面では、安易にAIの答えを鵜呑みにすることはできません。必ず現場の生のデータや原点となる情報に戻る必要があります。
私自身、IT業界に長年携わり、簿記や会計の知識も身につけてきましたが、数値の裏を取る作業というのは決して楽ではありません。決算書の表面上の数字が良く見えても、実体としての現金が残っていなければ会社は成り立たないのと同様に、AIがどれほど綺麗な回答を提示してくれても、現場の事実と合っていなければ意味がないのです。
50代で起業してから痛感したのは、「AIがくれる心地よい評価」よりも、「提案後に顧客から返信が来ない」という冷徹な事実のほうが、はるかに多くのことを教えてくれるということです。
直視したくない現実かもしれませんが、次の正しい判断はそこからしか生まれません。
AIを疑い排除するのではなく、「どこまではAIに手伝わせ、どこから先は自分自身の目で現実に当たって検証すべきか」という境界線を引くこと。AIが何を言ったかではなく、現実に何が起きているかを見つめる姿勢が、これからの事業づくりには求められていると感じています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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