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AI・IT活用

データはあるのに現場が動けない。工場DXの本当の課題と「隙間を埋める」IT活用

京都・亀岡を拠点に中小企業のIT活用やAI導入を支援しているCloudLab代表の岩森です。

先日、ある製造業の会社へ足を運び、工場内の業務ヒアリングと試作システムの打ち合わせを行ってきました。3回目のヒアリングとなり、試作段階の画面を見ていただきながら具体的な意見を交わすことができました。

その企業では、すでに高機能な生産管理システムが導入されていました。受注情報や納期、製番、工程などがしっかりとデータとして登録されています。最初にその話を聞いたとき、私は「データがここまで揃っているなら、現場の進捗管理もかなりスムーズに行われているのだろう」と考えていました。

しかし、実際に現場や業務の流れを見せていただくと、事情は全く違っていました。

データがあることと、仕事に「使える」ことは別物

システムの中にデータは入っているものの、「今どの製品がどの機械でどこまで進んでいるか」「納期に間に合いそうか、どこで滞留しているか」といった情報を、現場の責任者や営業担当者が自分の手元ですぐに確認できる状態にはなっていませんでした。

生産管理システムを操作できるパソコンの台数は限られており、工場現場と事務所も離れています。現場の責任者が進捗を知りたいと思っても、事務所の担当者に頼んでデータを抽出してもらう必要があります。

さらに、定期的に開かれる工程会議では、立場によって見たい情報が異なります。
- 営業担当者:自分が担当する顧客の製品が納期に間に合うかを知りたい
- 現場の製造責任者:マシニングセンターや旋盤など、特定の工程にどれだけ仕事が詰まっているかを知りたい
- 経営者:会社全体として予定通りに進んでいるか、遅延が発生していないかを知りたい

元となるデータは同じですが、立場によって必要な切り口が違うのです。現状では、事務担当者がシステムからデータを抽出し、Excelに貼り付け、見やすい形に整形して紙に印刷し、会議で配布していました。場合によっては、そこに手書きで補足情報を書き足すこともあります。

高額な生産管理システムが入っていても、最終的な情報の伝達や加工は人間の手作業によって繋がれていたのです。これは製造業に限らず、多くの企業で起きている問題ではないでしょうか。

情報が「翌日」届く構造からの脱却

もう一つの大きな課題は、作業実績の把握でした。

現場の作業者が「いつ作業を始め、いつ中断し、いつ完了したか」を紙の日報に記入し、それを翌日回収して事務所でシステムに入力する、という流れになっていました。

これでは、仮に今日の午前中に機械が長時間止まっていたとしても、事務所側がそれに気づくのは「翌日」になります。翌日になってから「昨日、ここで作業が止まっていたんだな」と分かっても、その日のうちに対策を打つことはできません。

もし現場で、タブレットやスマホから「開始」「中断」「完了」といったボタンを簡単に押せる仕組みがあれば、状況はリアルタイムに共有されます。「この作業、予定より時間がかかっているな」「あの機械がしばらく動いていない」といった変化に、事務所にいる人間もその日のうちに気づくことができるのです。

今回、私たちが試作した画面では、時間割のように「予定」と「実績」を並べて表示し、作業が予定通り進んでいるか、割り込み作業が入ったかが一目で色分けして分かるように設計しました。

また、実際の現場は機械加工だけを行っているわけではありません。段取り替えや清掃、打ち合わせ、機械の調整など、製品番号に直接紐づかない作業も多数発生します。1人の作業者が複数の機械を同時に動かすこともあれば、機械を動かしている最中に会議に出ることもあります。単純な「1人1作業」の設計では、現場の実態と乖離して使われなくなってしまいます。現場の細かな動きを聞き取りながら、柔軟に記録できる仕組みを目指しました。

「終わった仕事を二重線で消したい」という社長の言葉

試作品を見ていただくなかで、社長から印象的なリクエストがありました。

「作業が終わったら、画面上の項目に二重線を引いて消していくような見せ方にできないか」という提案です。

詳しく話を伺うと、昔、同じ製品を大量生産していた時代、紙に書いたマス目を作業完了ごとに塗りつぶしていく運用をされていたそうです。自分の仕事の進捗が目に見えて分かることが楽しく、大きな達成感につながっていたとおっしゃっていました。

このお話は、私にとっても非常に大きな気づきでした。

「進捗管理」と聞くと、管理者が現場を監視するためのツールだと捉えられがちです。「誰が何時間働いたか」「どの機械が停滞したか」を把握することも確かに重要ですが、それだけでは現場で気持ちよく使ってもらえません。

「今日これだけの仕事を終えられた」「残りはあとこれだけだ」という達成感が作業者本人にも還元される仕組みでなければ、現場に定着しないのです。これは画面上の設計一つをとっても、机上の論理だけでは出てこない発想でした。

既存のシステムを捨てず、手作業の「隙間」を埋める

今回の支援で改めて感じたのは、既存のシステムをすべて捨てて新しいものに刷新する必要はないということです。

すでに導入されているシステムには、受注や納期、工程の重要データが蓄積されています。問題はデータがないことではなく、必要な人が使いやすい形で取り出せていない点にあります。

であれば、既存システムからCSVなどで出力できる機能を活かし、そのデータを別のプログラムで受けて必要な切り口(取引先別、工程別、担当者別)に自動変換すれば十分です。現場にはタブレットで予定を表示し、実績を入力してもらう。その情報を事務所のモニターにリアルタイムで反映させる。

こうした「隙間を埋めるアドオン(追加機能)」の構築こそが、予算やリソースに限りのある中小企業における現実的で効果的なDX(デジタルトランスフォーメーション)だと考えています。

「なぜ毎回Excelにコピーしているのか」「なぜ紙に印刷して手書きしているのか」といった現場の些細な手作業を丁寧に辿っていくと、本当に作るべき小さな仕組みが見えてきます。

完成品をいきなり納品するのではなく、動く試作品(プロトタイプ)を早い段階で見てもらい、実際の業務に合わせてブラッシュアップを重ねる。システム開発において最も重要な仕事は、プログラムを書くことそのものよりも、「誰が、何を見て、どう判断して動いているのか」を理解する対話のプロセスにあります。

大掛かりなAIや大規模なシステム改修を導入しなくても、現場と事務所の間にある溝を埋めるだけで、業務効率は大きく改善します。集めたデータを、現場が具体的に動ける情報へ変えていく支援を、これからも愚直に続けていきたいと思います。

CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。

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