合同会社CloudLab代表の岩森です。私は京都・亀岡を拠点に、地方の中小企業のみなさんのDX支援やAI活用のサポートを行っています。
日頃から様々な業種の経営者や現場のお話を聞きに行くなかで、改めて強く感じることがあります。それは、「会社を動かしているものの多くは、結局のところ書類と手続きである」ということです。
製造業であれサービス業であれ、商品を仕入れて作ったり売ったりするだけでは会社は回りません。許認可、税務、社会保険、補助金の申請、見積書や請求書の発行、社内規定の運用……。誰が何を承認したのか、どんな条件で契約したのか、いついくら支払うのか。これらを文書や数字として記録し、制度に沿って運用していく必要があります。
しかし正直なところ、この手続き業務は非常に手間がかかります。現場の人手も取られますし、経営者としても「できることなら減らしたい」と思うのが本音でしょう。私もITやAIを使って、入力作業を減らしたり、データの転記を自動化したりするお手伝いを日々進めています。
そんな中、イスラエルの歴史家であるユヴァル・ノア・ハラリ氏のインタビューに触れる機会があり、これまで見ていた「面倒な事務作業」に対する視点が少し変わる感覚がありました。
今回は、AIが普及するこれからの時代に、私たち中小企業の経営者が「業務の効率化」と「意思決定」についてどのように向き合っていくべきかをお話ししたいと思います。
世界を動かすのは「殺人ロボット」ではなく「AI官僚」
SF映画などで「AIが世界を支配する」というシーンを描くとき、よく登場するのは街を走り回って人間を襲う殺人ロボットのような存在です。しかしハラリ氏は、そうした物理的な暴力による支配ではなく、「AI官僚(AI Bureaucracy)」こそが世界を動かしていくようになると指摘しています。
なぜなら、人間社会の大きな仕組み——国家、銀行、株式市場、法律、そして企業——は、すべて「言葉」と「規則」という抽象的な概念で成り立っているからです。
建物やパソコンがあるから会社が存在するのではなく、定款があり、契約があり、帳簿があり、役職や権限の規定があるから会社として機能します。現代社会を動かしている基本システム(OS)は「言語」そのものです。
そしてAIは、まさにこの「言語」や「規則」を扱うことを最も得意としています。
大量の文章を読み込み、分類し、要約し、矛盾を探し出し、過去の事例や法律と照らし合わせて条件に合うものを選ぶ。人間であれば疲れてしまったり、読める量に限界があったり、過去の記憶を忘れてしまったりする作業を、AIは一瞬で正確にこなします。ハラリ氏の言葉を借りれば、AIは最初から事務手続きや組織運営の環境に適応した「官僚ネイティブ」なのです。
「手伝うAI」から「決めるAI」へのシフト
事務作業や書類作成をAIが手伝ってくれること自体は、人手不足に悩む中小企業にとって大きな救いになります。申請書の下書きを作ってくれたり、契約書のチェックをしてくれたり、過去の取引データを分析してくれたりするのは非常に便利な支援です。
問題は、どこかのタイミングでAIの位置づけが「作業を手伝う存在」から「判断を決める存在」へと静かに移行していく点にあります。
プロセスの変化を考えると、次のようなステップが想像できます。
- 人間が判断し、AIが文章や書類を作る
- AIがいくつかの候補を出し、人間がそこから選ぶ
- AIが最も最適だと判断した「案」を、人間が確認して承認ボタンを押す
- 人間はAIの判断理由を完全には理解できないまま、効率を優先して承認ボタンを押し続ける
すでに一部の金融機関では、AIを活用した融資審査やリスク予測が行われています。膨大な財務データや業界動向を分析し、人間よりも高い精度で倒産リスクを弾き出す。それ自体は合理的な仕組みです。
しかし、もし融資を断られた経営者が「なぜダメだったのか」と尋ねた際、担当者が「AIが高精度でリスクがあると判断したためです。詳しい理由はアルゴリズムの仕様上、説明できません」としか答えられなくなったらどうでしょうか。経営者はどこに理由を求めて、どこへ異議を申し立てればよいのでしょうか。
暴力による支配であれば、誰もが「支配されている」と気づいて抵抗できます。しかし、便利さや効率化によって判断権を手放していった場合、私たちは支配されているという感覚すら持たないまま、AIが運用するルールに従う側になっていくリスクがあります。
経営者が「最後まで残すべきもの」とは何か
こうしてお話しすると、「AIの導入に反対しているのか」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。私自身、日常業務でAIを深く活用していますし、一人何役もこなさなければならない中小企業の経営において、AIは非常に強力な武器になると確信しています。
専門家に高額な費用を払わなければ難しかった事前調査や情報整理を、小さな会社でも手軽に行えるようになるメリットは計り知れません。
だからこそ、「AIの進化を止めるべきだ」という単純な話ではなく、「業務を効率化して判断を委ねるときに、人間側に何を残しておくか」を同時に設計することが重要なのだと考えています。
効率だけを追求すれば、すべての選別や判断をAIに任せてしまうのが一番早いかもしれません。しかし、「処理が早く正確であること(効率)」と「自分たちの会社の方向性を自分たちで決めていること(主権)」はイコールではありません。
会社の中でAI活用を進める際には、少なくとも次のような視点を持っておく必要があります。
- なぜその結論に至ったのか、人間が追跡できる状態になっているか
- AIが出した判断を、人間が理由を持って修正・変更できるようになっているか
- 万が一誤りがあった場合に、最終的な責任を負う人間が誰なのか明確になっているか
大きな変化は、ある日突然ロボット軍団がやってくるような形では起こりません。「昨日まで人間がやっていた確認を今日はAIがやる」「AIが出してきた選択肢の中から人間が選ぶだけになる」というように、日々の小さな業務を通じて、静かに判断の主体が入れ替わっていきます。
京都や亀岡の現場で中小企業を支援していると、これは遠い未来のSFの話ではなく、今まさに私たちの足元から始まっている変化だと実感します。
効率化を進めて現場を楽にすることと同時に、「どこまではAIに任せ、どこから先は人間が決めるのか」。答えを急ぐ必要はありませんが、今の段階からこの問いを持ち続けることが、これからの時代に会社を守り、経営の舵を取り続けるために必要な姿勢なのではないでしょうか。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。現場の業務整理から「どこにITやAIを活かすべきか」というご相談まで、無理のない活用方法を一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。
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