「AIによって事務職がなくなる」「ライターやプログラマーの仕事が減る」といった話は、ニュースやSNSでも頻繁に見かけるようになりました。私自身、日常的に生成AIを活用していますし、作業効率化という観点での影響の大きさは身をもって感じています。
しかし、歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ氏が指摘するように、AIの本当の恐威は単に「人間の業務を代替すること」ではありません。もっと根本的な変化――人類が初めて「物語(言葉や概念)を作る力」を人間以外の存在に手渡そうとしている点にあります。
今回は、国家や企業、お金という仕組みの正体から、AIが人間社会にもたらす本当の影響、そして経営者が手放してはならない「判断の主導権」について考えてみたいと思います。
人類を繁栄させたのは「共通の物語」を信じる力
そもそも、なぜ人間は地球上でこれほど大きな力を持つことができたのでしょうか。
腕力や走る速さで言えば、1対1で野性動物に勝てる人間はほとんどいません。人間が特別だったのは、会ったこともない何万人、何百万人という他人同士で大規模に協力できたからです。
では、見知らぬ人同士がなぜ協力できるのか。それは人間が「共通の物語」を信じることができる唯一の生物だからです。
たとえば「国家」という存在を考えてみてください。「日本」という地質や建物、そこに住む人間は実体として存在しますが、「日本国」という国家概念そのものは手で触れることができません。法律や国境という共通の約束事(物語)を、みんなで正しいと信じることで成り立っています。
企業やおカネも同じです。私が経営する合同会社CloudLab(クラウドラブ)も、事務所やパソコンという物体はあっても、「会社」そのものは契約や信用、法律という概念の上にある物語です。一万円札だって、紙切れ一枚に一万円相当の価値があると全員が信頼しているから商品と交換できます。
宗教、法律、企業、通貨――。人間が築いてきた文明の根幹は、すべてこの「目に見えない共通の物語」によって動いてきました。
「情報を運ぶ道具」から「情報を作る存在」への変化
そして、その物語を作り、共有するために使われてきたOS(基本ソフト)が「言葉」でした。
人類はこれまでも、紙、印刷機、ラジオ、テレビ、インターネットといった情報技術を発明してきました。しかし、これらはすべて「人間が作った情報を遠く・広く運ぶための道具」にすぎませんでした。
印刷機が自分で小説を書くことはありませんし、テレビが自らニュースの構成を考えることもありません。どの物語を世に送り出すかを選択していたのは、常に人間でした。
ところが、生成AIの登場によって前提が覆りました。AIは文章も、画像も、音楽も、動画も自分で生成します。人間と対話しながら、その場に応じた回答を作り出します。
歴史上初めて、情報を伝達する機械ではなく「情報や言葉そのものを作り出す機械」が現れたのです。
1人ひとりに合わせた「心地よい物語」が紡がれる怖さ
私自身、AIと長時間やり取りしていると、自分1人では思いつかなかった視点が得られることがよくあります。非常に有益なツールである一方、ふと「今自分が考えている意見は、本当に自分の思考なのだろうか?」と疑問を抱く瞬間があります。
AIが提示した心地よい言葉を、知らず知らずのうちに自分の考えとして受け入れてしまっているのではないか。その境界線があいまいになっていく感覚です。
従来の宣伝やプロパガンダは、同じメッセージを大衆に向けて一斉に発信するものでした。しかし、AIは全員に同じ文章を見せる必要がありません。
相手の年齢、職業、関心ごと、過去の悩みに合わせて、「その人が最も信じたくなる物語」を個別に提示できます。
- 経営に悩む経営者には、本人が納得しやすい理屈を語る
- 将来に不安を抱く人には、優しく寄り添う言葉をかける
- 誰かに怒りを感じている人には、その感情を正当化する理由を与える
人は、自分から質問して答えを得たとき、「支配されている」とは感じません。「自分で調べて、自分で考えて判断した」と思い込みます。1人ひとりの感情や弱点に寄り添った物語を無限に生成できる点に、これまでのメディアにはなかった恐ろしさがあります。
「原稿を書かせること」と「何を語るか決めてもらうこと」の違い
もちろん、業務の効率化としてAIに文章を書かせたり、アイデアの壁打ち相手になってもらうこと自体は非常に有効ですし、積極的に使うべきです。
問題なのは、文章の作成だけでなく「自分が何を信じるべきか」「事業をどの方向へ進めるべきか」という判断までAIに預けてしまうことです。
例えば、AIに新しい事業の相談をして「このビジネスモデルは成功する可能性が高いです」という回答が得られたとします。しかし、AIが市場に出て実際にお客さんに営業したわけでもなければ、リスクをとってお金を払ったわけでもありません。
最終的に失敗の責任を負い、現実と向き合うのは人間である経営者自身です。現実の顧客の反応を確認しないまま、AIが作った耳ざわりの良いストーリーだけを信じて突き進むのは、極めて危険な状態と言えます。
AIに文章の言語化を助けてもらうことと、語るべき意思やビジョンまで決めてもらうことは、決定的に違います。
事業の「作者」であり続けるために
AI時代の最も本質的な問いは、「AIが人間より賢くなるかどうか」ではありません。「私たち人間が、自分たちの事業や人生の物語の『作者』であり続けられるか」です。
どんな会社を作りたいのか。地域や顧客に対して、どんな価値を提供したいのか。
その出発点となる「意思」や「責任」だけは、どんなに技術が進化しても人間が手放してはならない領域だと私は考えています。
AIという強力なツールを使いこなしつつも、最後に舵を切るペンは自分の手で握り続ける。便利さに流されそうになる時代だからこそ、経営者としての根本の姿勢を大切にしていきたいものです。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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