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AI・IT活用

巨大な組織がなくても人は集まるのか――AIとSNSが変えた「群衆」の正体

2026年10月、フランス全土で50万人以上が参加する大規模な抗議活動が行われ、一部の地域では激しい暴動や略奪にまで発展しました。

その大半は燃料価格の高騰などに反対する平和的なデモでしたが、この騒乱の経緯を調べていくと、これまでの社会運動とは明らかに異なる奇妙な兆候が浮かび上がってきました。

それは、AIが作った画像とSNSの推薦アルゴリズムが、組織のリーダー不在のまま大勢の人間を動かしていたという現実です。

日頃、地方中小企業のAI活用やIT化を支援している私にとっても、この現象は対岸の火事ではなく、情報技術が社会や人の行動をどう変えつつあるのかを深く考えさせられる出来事でした。

組織のないデモ、AIが作った告知ポスター

かつて、大規模なデモや集会を起こすには強力な組織が必要でした。政党や労働組合、あるいはカリスマ的な指導者がいて、ビラを配り、連絡網を回し、綿密な計画を立てて人を集めていたわけです。

ところが今回のフランスの事例では、事態の発端がまったく違っていました。

事の発端は9月、ある若い男性がガソリン価格の上昇に対する怒りを訴え、「10月17日に集まろう」と呼びかけたTikTok動画でした。土曜日だから参加しやすいという身近な提案だったその動画は、150万回以上再生されたと報じられています。

奇妙なのはここからです。その後、SNS上に「10月17日に黄色いベスト運動が復活する」という告知が急増しました。フランスの大手紙『ル・モンド』が発信元を調査したところ、正式に呼びかけを行っている主要な組織が見当たらなかったのです。

それにもかかわらず、集合場所や日時が記された見栄えのいいポスターが大量に出回っていました。そして、そのポスターの多くは生成AIによって作られた画像でした。

実在しない「黄色いベストを着た群衆」のリアルな画像に、もっともらしいキャッチコピーが乗せられている。それを見た一般の人々は、「どこかの大きな団体が正式に決めた全国運動なのだろう」と受け取ってしまったのです。

さらに不可解なことに、それらの告知を拡散していたアカウント群の中には、特定の政治的信念を持った運動員だけでなく、単にフォロワーを集めてアカウントを転売したいだけの人々も含まれていたと指摘されています。社会を動かす強い意志がなくても、「注目を集めたい」という個人の欲求とAIツールの手軽さが結びつき、結果として大規模な動員の土台を作ってしまったわけです。

推薦アルゴリズムが「見知らぬ人」を束ねる

なぜ、発信元も定かではない情報がこれほど広く届いたのでしょうか。その鍵を握るのが、SNSの推薦アルゴリズムです。

従来の連絡網であれば、相手の電話番号やメールアドレスを知らなければ情報は届きません。しかし、現代のSNSではその前提が崩れています。

日頃から生活苦や物価高に不満を感じているユーザーが、ガソリン代に関する動画を何度か見たり、コメントを残したりする。するとアルゴリズムは「この人は政府への不満や生活防衛に関心がある」と学習し、同じような不満を訴える動画や、デモの告知ポスターをタイムラインに次々と流し始めます。

互いに名前も住所も知らない。友達ですらない。それでも、アルゴリズムが共通の関心を持つ何万もの人々の手元へ、同じ日時と場所の情報を送り届けます。

誰かが頂点から「集まれ」と号令をかけたわけではありません。一人ひとりはただ自宅でスマートフォンを眺めていただけなのに、気がつけば同じ方向へ動き出してしまう。これが、アルゴリズム時代における群衆の集まり方です。

現実の現場が「配信コンテンツ」に変わる

もうひとつ見過ごせないのは、現場でのスマートフォンの使われ方です。

2023年に起きたフランスの暴動を調査した上院の報告書には、「SNS上の投稿の増加は、実際の暴動の激化よりわずかに早かった」という記録があります。ある街で起きた騒乱の映像がネットに流れ、それを見た隣町の若者が刺激され、模倣と競争が連鎖していくという構造です。

2026年10月の現場でも、TikTokなどで無数のライブ配信が行われていました。目の前で店舗が襲われ、催涙ガスが立ち込める中で、逃げるでもなく警察を呼ぶでもなく、スマートフォンを掲げて配信を続ける若者が大勢いたといいます。

中には「フォローしてくれないと配信をやめるぞ」と冗談交じりに視聴者に呼びかける配信者もいました。現実の街で起きている深刻な出来事が、SNS上で消費される「数字(再生数・フォロワー数)を稼ぐためのコンテンツ」へと変質しているのです。

さらにそこへ、生成AIによる偽画像が紛れ込みました。

ピンクパンサーの着ぐるみを着たデモ隊が放水を浴びている画像や、高齢者が衣服を奪われたとされるショッキングな画像が拡散されましたが、これらは後にAI生成と判定されています。

平穏な日常の中に偽画像が流れてくれば見抜けるかもしれません。しかし、現実に火の手が上がり略奪が起きている現場のタイムラインに、本物の映像とAIの偽物が混ざって流れてきたらどうでしょうか。それを見分けることは極めて困難です。

結果として、ある人は「平和的なデモ」だけを見つめ、ある人は「暴徒の破壊活動」を見つめ、別の人は「AIが作った過激な捏造」を見つめる。同じ国の同じ事件について議論しているはずなのに、それぞれが見ている「現実」がバラバラになってしまう分断が起きています。

人を集めるAIと、人を監視するAI

皮肉なことに、国家側もまたアルゴリズムに頼らざるを得なくなっています。

フランスでは2024年のパリ五輪を機に、街頭カメラの映像をソフトウェアで解析し、異常な混雑や危険な兆候を自動検知する「アルゴリズム型映像監視」の実験が始まりました。この制度は法律により2030年末まで延長されています。

一方ではSNSのアルゴリズムが感情を刺激し、人々を特定の場所に集める。
もう一方では国家のアルゴリズムが、集まった群衆を上空や街頭から監視・分析する。

集める側も、監視する側も、どちらも膨大な人間の行動を数式で処理しているわけです。治安維持の観点からは理解できる面があるにせよ、人間が常に機械によって行動を測られる社会の息苦しさは、決して他人事ではありません。

「誰が動かしているのか」という問い

こうした騒乱が起きると、私たちはつい「裏で糸を引いている黒幕(外国勢力や特定の過激組織)は誰なのか」というわかりやすい犯人探しをしたくなります。

確かに、国家間の情報工作として偽情報を流し、対立を煽る試みが存在することは各国政府の報告でも明らかになっています。しかし現代の恐ろしいところは、工作員がアルゴリズムを直接操作する必要すらないという点です。

すでに社会にある不満の火種に、AIで作ったもっともらしい画像や刺激的な短尺動画をいくつか投げ込む。あとは、再生数を稼ぎたいアカウントがそれを拡散し、怒りを覚えた一般市民がシェアし、SNSの推薦システムが「エンゲージメントの高いコンテンツ」として何十万もの人々に自動で届けてしまう。

黒幕を一人特定したところで、この問題全体は説明できません。

  • 最初のきっかけを投稿した人
  • 再生数やフォロワー目当てでAI画像を作って広めた人
  • 怒りに任せて拡散ボタンを押した一般のユーザー
  • 「反応が良い投稿」を機械的に選び出して配信したアルゴリズム

誰も全体をコントロールしていないのに、全員の小さな動機が重なり合って、現実の街を揺るがす巨大なうねりになってしまうのです。

身近な道具としてのAIと、向き合う姿勢

生成AIは、正しく使えば日々の事務作業を劇的に減らし、小さな会社の発信力を何倍にも高めてくれる素晴らしい道具です。私自身、中小企業の現場でAIツールを構築し、業務効率化のお手伝いをしています。

しかし同時に、この技術は「本物と見分けがつかない情報」や「人の感情を揺さぶるコンテンツ」を、コストゼロで大量生産できてしまう力も持っています。

情報の受け手としても、ビジネスの送り手としても、私たちは「目の前で見えているものが、誰のどんな意図によって、どの仕組みを通じて届いているのか」を、一歩引いて確かめる冷静さを持たなければなりません。

技術の便利さを享受しながらも、その裏側にある構造に呑まれないようにする。50代で起業し、泥臭い地域ビジネスの現場と最新のITの狭間に立つ身として、この視点だけは手放さずに持ち続けたいと考えています。

CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。

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