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AI・IT活用

日報の数字が間違っていたらAI分析は無意味。製造業DXで本当に最初に取り組むべきこと

先日、ある精密加工を行っている製造業の会社へ伺い、社長さんや現場の様子をヒアリングする機会がありました。

製造業で「AIやDXを活用する」というと、どのようなイメージを浮かべるでしょうか。一般的には、機械の故障を事前に予測する予知保全、図面を読み取って加工方法を自動提案するシステム、あるいはカメラ画像による不良品の自動検知といった、高度な技術を想像される方が多いと思います。

私自身も訪問前は、そうした先端テクノロジーを活用した提案を頭の中で準備していました。しかし、実際に現場でお話を伺ってみると、解決すべき課題はもっと手前の基礎的な部分にありました。

予定と実績の乖離――その「日報」は本当に正しいか

その会社では、見積もりの段階で「この製品の加工にはこれくらいの時間がかかる」という予定工数をあらかじめ設定し、管理されていました。そして作業終了後、作業者が実際に何時間かかったかを日報に入力する運用を行っていました。

本来であれば、この予定工数と日報の実績データを突き合わせることで、以下のような重要な判断ができるはずです。

  • 当初の見積もり金額や見込み時間は妥当だったか
  • 予定より時間がかかっている場合、どの工程にネックがあるのか
  • 次回同等の案件を受注する際、いくらで提示すべきか

しかし、詳しく現状を確認していくと、その前提となる「日報の数字」自体が正確ではないことが分かってきました。

たとえば、中小規模の現場では1人の作業者が複数の仕事を並行して進めるケースが珍しくありません。午前9時から12時までの3時間で、製品Aの加工を行いながら製品Bの段取りも進めていた場合、日報には「製品Aに3時間」「製品Bに3時間」と記入されてしまうことがありました。実際の稼働は3時間であるにもかかわらず、紙やシステムの上では合計6時間の工数が計上されてしまうわけです。

逆に、作業中に別の急ぎ仕事が入った時間、機械が一時的に停止していた時間、材料の到着を待っていた時間などは、どこにも記録されずに埋もれていました。

これでは製品ごとの正確な製造原価が把握できません。原価が分からなければ正しい見積もりも出せず、安く受けすぎて赤字になったり、高く見積もりすぎて競合に案件を奪われたりするリスクを抱え続けることになります。

ガベージイン・ガベージアウト:ゴミを入れたらゴミしか出ない

ここで「AIを使って作業時間を自動分析し、最適な原価計算をしよう」と考えたくなるかもしれません。

しかし、元になる日報のデータが間違っている状態でAIに分析させても、意味のある結果は得られません。不正確なデータをAIに入力すれば、AIは「不正確な結果をもっともらしく整えて出力する」だけです。

ITの分野では昔から「ガベージイン・ガベージアウト(ゴミを入れたら、ゴミが出てくる)」という言葉がありますが、まさにこの状態に陥ってしまいます。

AIという道具を活かすためには、高度な解析アルゴリズムを探すことではなく、まず「現場の正しい事実」がデータとして集まる環境を整えることが先決です。

高度なAIの前に必要な「押しやすいスタートボタン」

では、現場で正しいデータを集めるにはどうすればよいのでしょうか。私は、最初から高価で複雑なシステムを入れる必要はないと考えています。

求められているのは、現場の作業者に負担をかけない「シンプルで直感的な仕組み」です。

具体的には、各機械の近くや作業エリアにタブレットまたはスマートフォン(作業員の携帯端末でも可)を1台設置します。作業者は以下のような最小限の操作だけを行います。

  1. 画面で自分の名前を選ぶ
  2. 作業指示書のバーコードを読み取る
  3. 「スタート」ボタンを押す
  4. 作業が終わったら「ストップ」ボタンを押す

工場などの現場において、細かい文字入力を求める画面や、パソコンのある場所までいちいち移動しなければいけない仕組みは、まず定着しません。長文を書かせる運用も現場の負担を増やすだけです。

入力項目は名前、製品(指示書)、使用する機械、開始・終了のタップのみ。必要であれば「中断理由(材料待ち・機械調整など)」を選択肢から選ぶ程度に留めます。

このシンプルな操作で取得できたデータだけでも、大きな価値が生まれます。「今どの機械が稼働しているか」「誰がどの作業を担当しているか」「予定より遅れている案件はどれか」といった進捗状況が把握できるようになります。これらを事務所や工場の大型モニターに表示(見える化)するだけでも、現場の状況判断のスピードは格段に上がります。

最初から完璧を目指さず、1つの工程・数人で試す

もちろん、実際の現場運用では必ず例外やトラブルが発生します。

  • スタートやストップの押し忘れ
  • 途中で突発的な割り込み作業が入った場合の扱い
  • 休憩時間や段取り時間の切り分け

最初からこれらすべての例外に対応しようと完璧な設計を目指すと、システムが複雑化して現場が扱いきれなくなります。

まずは「1つの機械」「1つの工程」「数人の作業者」といった小さな範囲でスモールスタートすることが重要です。

実際に使ってもらいながら、「どの場面で押し忘れが起きるのか」「どの入力が煩わしいのか」を観察します。ボタンの配置を減らしたり、選択肢を工夫したりといった改善を泥臭く繰り返しながら、現場に定着させていきます。

事実の蓄積があって、初めてAIの出番が来る

こうして現場で「誰が、いつ、どの機械で、何をしたのか」という正しい事実が無理なく記録されるようになって初めて、AIを活用する基盤が完成します。

蓄積された正しい実績データがあってこそ、AIは真価を発揮します。

  • 過去の類似実績に基づく、高精度な予定工数の事前提示
  • 遅延が発生しそうな案件の早期アラート
  • 稼働率が低下している時間帯や機械の自動特定
  • 見積もりと実績の差が大きい製品傾向の割り出し

製造業DXにおいて華やかな最新技術に目が向きがちですが、最も大切な土台は「現場の事実をそのままデータとして残せる環境」です。

高度なAIを検討する前に、まずは現場の誰もが迷わず押せる「大きなスタートボタン」を用意すること。一見遠回りに見えますが、それこそがAI活用を成功させる一番の近道ではないでしょうか。

CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。

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