「AIのために、世界で毎年800兆円規模の投資が必要になる」
そう聞くと、多くの経営者は「いくらなんでも投資しすぎではないか」「今のAIブームは、巨大なバブルなのではないか」と感じるかもしれません。巨額の設備投資を一体どうやって回収するのか、疑問に思うのが自然な感覚だと思います。
しかし、ソフトバンクの孫正義氏は「AIはバブルなのか」と尋ねること自体が、AIの本質を見誤っていると指摘します。
孫氏が見ているのは、ChatGPTの月額利用料や足元のAI関連企業の売上ではありません。彼が目指しているのは、2040年に誕生する「世界GDPの20%(約7000兆円)を占める巨大なAI経済圏」です。
今回は、孫氏の講演内容を紐解きながら、その巨額投資の裏にある論理と、私たち経営者が学ぶべき「ビジョンと戦略」の立て方について考えていきます。
なぜ「2040年」なのか? インターネット革命の歴史から逆算する
孫氏はなぜ、2040年という時間軸を設定しているのでしょうか。その根拠は、1995年に始まったインターネット革命にあります。
当時も「インターネットは仮想の世界に過ぎない」「ビジネスモデルがない」「ただのバブルだ」と言われていました。しかし、現在世界経済を牽引しているのは、その時代に生まれたIT巨大企業たちです。
そしてインターネット革命では、最初の20年間でほぼ勝負が決まりました。その20年間にプラットフォームを築けなかった企業は、その後トップに立つことができていません。
2022年頃から本格化した生成AIの波から20年後が、ちょうど2040年です。孫氏は、この最初の20年間でAI産業の覇権が決まると捉えています。
また、インターネットが最初に置き換えたのは、世界GDPのわずか1%程度に過ぎない「広告産業」でした。それだけでも世界中の富の構造が変わりました。
対してAIは、医療、金融、製造、物流、建設、教育、創薬、ソフトウェア開発まで、あらゆる産業に深く入り込みます。知的労働と肉体労働の両方を担うため、対象となる経済規模はGDPの20%(年間約7000兆円)に達すると試算されているのです。
ハンバーガーを食べたり、うどんを食べたり、休日に外出したりする残りの80%の生活は変わりません。しかし、社会の基盤を支える労働の大部分がAIによって再構築されます。
100兆のAIエージェントと10億台のヒューマノイド
年間7000兆円を生み出す現場では、何が動いているのでしょうか。孫氏が示したのは、次の2つの存在です。
1. 100兆個の「AIエージェント」(ホワイトカラーの代替)
人間が職場で行う仕事の多くは、数十から百種類程度の細かな作業の組み合わせです。メールを読む、調べる、資料を作る、数値を入力する、関係者に連絡する——。これらを専門のAIエージェントが分担します。
重要なのは、人間からの指示を1つずつ待つのではなく、AI自らが判断し、AI同士で通信して仕事を進める点です。営業のAIが在庫管理のAIに確認し、在庫管理のAIが製造計画のAIに伝える。24時間365日、人間を介さずに仕事が巡り続けます。
これまで「人間が使う道具」だったコンピューターが、「AIが自ら操作するシステム」へと変化するのです。
2. 10億台の「ヒューマノイド」(ブルーカラーの代替)
AIエージェントが物理的な身体を持ったものがヒューマノイドです。自ら周囲の状況を認識し、判断して行動します。
孫氏は、ヒューマノイド1体で人間10人分の労働力を担えると見ています。10億台が稼働すれば100億人分の物理的労働力に相当します。
ホワイトカラーの知的労働は100兆個のAIエージェントが、ブルーカラーの物理労働は10億台のヒューマノイドが担う。この圧倒的な労働力が、7000兆円の経済価値を生み出すという構図です。
800兆円は「浪費」ではなく「合理的な設備投資」
これほどのAI群を動かすには、桁違いの計算能力と電力が必要になります。2040年に必要なデータセンターの電力規模は3テラワット(3TW)。これを整備するための投資額が、冒頭の「年間800兆円(約5兆ドル)」です。
金額だけを聞けば浮世離れした数字に見えますが、孫氏は逆から計算しています。
- 見込まれる売上: 年間7000兆円
- 見込まれる利益(利益率約50%): 年間3500兆円
- 必要な設備投資: 年間800兆円
年間3500兆円の利益を生むビジネスモデルを成立させるためであれば、年間800兆円の設備投資は十分に採算が合います。つまり、これは無謀な賭けでもバブルでもなく、将来の利益から逆算された合理的な事業計画なのです。
経営者に必要なのは「期限と数字」を置くこと
今回の講演で感銘を受けたのは、孫氏のAI観の鋭さだけでなく、「経営者としてのビジョンと戦略の示し方」です。
日本の経営では、組織の団結や人間関係の調和が重宝されます。もちろんそれも大切ですが、どれだけ社員が仲良く働いていても、船が進む方向を誤れば企業は生き残れません。
孫氏は講演の中で、「AIを活用しよう」といったスローガンだけでは戦略にならないと語っています。必要なのは、「いつまでに」「どの規模を目指すのか」という期限と数字を明確にすることです。
自ら巨額の資金を半導体やデータセンター、ロボット分野に投入し、リスクを取って行動しているからこそ、その数字にはリアリティがあります。単なる評論家的な予測ではなく、自らの手で実行するための事業計画だからです。
中小企業経営者としての視点
私たちが日々の経営で扱う数字の規模は、孫氏の語る世界とは大きく異なります。しかし、本質はまったく同じです。
「AIの時代が来るらしい」「便利になりそうだ」と漠然と眺めるのではなく、自分の事業において「いつまでに、どの業務を、どれくらい効率化するのか」「それによってどれだけの時間と利益を生み出すのか」を数字で固めること。
2040年の世界に向けた変化は、すでに始まっています。大企業だけでなく、地域に根ざした中小企業であっても、AIやITを活用した省力化・自動化への着手は避けて通れません。
私自身、50代で起業し、自社やクライアントの業務改善に向き合う中で、テクノロジーの進化が中小企業の現場をどれほど助けてくれるかを実感しています。
まずは自社の課題を数値化し、できるところからIT・AIの導入を進めていく。そうした地道で具体的な一歩こそが、これからの時代を生き抜く経営戦略になると確信しています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。自社の業務効率化やデータ活用でお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
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