地元の経済同友会の集まりに参加した際、精密機械部品を製造されている会社の社長から「うちもDXを考えているから、一度話を聞きに来てくれないか」とお声をかけていただきました。
早速ご訪問の約束をいただき、私(岩森)は訪問前に徹底的な準備を行いました。現在の生成AIツールなどをフル活用し、その会社の事業内容、業界動向、競合システムの仕様、同業種でのAI活用事例などを徹底的にリサーチしたのです。
「多品種少量生産の精密機械メーカーで、この従業員規模であれば、間違いなくこういう課題を抱えているはずだ」
そう考えた私は、AIとともに練り上げた仮説をもとに、それなりの枚数になる立派な提案レポートを作成して訪問に臨みました。
しかし、実際の現場で待っていたのは、その仮説が「完璧に外れる」という現実でした。
本命だった提案が、1分で崩れ去った瞬間
事前調査の段階で、私が「これこそが本命の課題であり、最大の解決策だ」と自信を持っていたのは、「過去の図面と見積もりデータをAIで高速検索・活用する仕組み」でした。
多品種少量生産の工場では、過去の類似図面を探すのに時間がかかったり、見積もり作業がベテランの頭の中にしかなく属人化していたり、検査成績表を手作業でExcelに入力しているケースが多く見られるからです。
ところが、社長とお会いしてヒアリングを始めると、すぐに次の事実が判明しました。
- 図面はすでにデジタル化されており、社内システムで素早く検索できる状態になっている
- 見積もり、受注管理、工程管理、外注発注も、既存の生産管理システムですでに一元化されている
- 今すぐ業務が止まって困るような深刻なトラブルは特に発生していない
AIを使って公的情報や業界の標準論から導き出した「完璧な仮説」は、見事に全滅したのです。
最初は正直なところ、少し肩透かしを食らったような感覚がありました。ですが、そこで「提案できることがありませんでした」と引き下がってしまっては、お時間を割いてくださった社長にも申し訳ありません。
業務フローを掘り下げて見えてきた「隠れたストレス」
そこで私は提案資料を一旦横に置き、現場の業務の流れをひとつずつ順番に伺っていくことにしました。
「現場からはどのような報告が上がってきますか?」
「作業日報は誰がどのように記入されていますか?」
「見積もった工数と、実際にかかった時間の比較はできていますか?」
「現場責任者の方は、誰がどの機械で作業しているかをどうやって把握していますか?」
丹念に質問を重ねていくと、レポートには決して上がってこない現場の「生の問題」が少しずつ姿を現しました。
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作業日報の精度の問題
複数の作業を並行して行う際、双方の作業に同じ時間が二重で計上されるなど、実態とデータにズレが生じていた。 -
進捗管理の属人化と心理的負担
機械ごとの稼働予定や作業員の配置が現場責任者の頭の中にしかなく、作業が予定通り完了したかどうかは、責任者が毎回現場まで足を運んで確認しなければならなかった。
社長や現場責任者にとって本当のストレスになっていたのは、「図面が探せないこと」ではなく、「現場の予定・進捗・実績が手軽に共有できず、確認の手間がかかること」だったのです。
仮説は「現場で壊されるため」に作るもの
今回の経験から、私は重要な再確認をすることができました。
AIは膨大なデータをもとに、一見すると非常に整合性の取れた「もっともらしい仮説」を瞬時に作ってくれます。しかし、どれだけ精巧であっても、公開情報から作った仮説はどこまで行っても「一般論」に過ぎません。
仮説とは、現場で壊されるために作るものです。
事前にAIを使ってしっかり仮説を立てておいたからこそ、それが現場で否定されたときに「なるほど、標準的なパターンとは違うのだな」と素早く察知し、「では実際に何が起きているのか?」ともう一段深いヒアリングへ移行することができました。
今回最も価値のあった情報は、立派に刷り上ったレポートの中には一文字も書かれていませんでした。それは、社長との対話の中で出てきた「作業が終わったかどうか、わざわざ現場まで聞きに行かなあかんねん」という、何気ない一言の中に眠っていたのです。
AI時代における人間の役割とは
AIが高度な仮説や資料を簡単に作れる時代になったからこそ、人間のコンサルタントや担当者の役割は明確になっていくと感じています。
- AIの役割:過去のデータや一般論から、大量の仮説や枠組みを迅速に作成すること
- 人間の役割:その仮説を現実の現場に素早くぶつけ、対話の中で生じる「小さな違和感」や「言葉にならないストレス」を拾い上げること
AIで質の高い仮説をいくらでも作れる時代だからこそ、その仮説をいかに早く泥臭い現場にぶつけに行けるか。そして外れたときに、柔軟に耳を傾けられるか。そのスピード感と対話力こそが、これからのDX推進において最も求められるスキルではないでしょうか。
私自身、50代で起業して多くの企業様と向き合う中で、スマートな理論以上に「泥臭い現場の声」の中にこそ本質的な答えがあると日々実感しています。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。現場の業務フローの整理や「何から手を付ければいいかわからない」といったお悩みについて、どうぞお気軽にご相談ください。
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