こんにちは、CloudLab代表の岩森です。
近年、生成AIの進化によって「デザイナーやライター、エンジニアの仕事が減っている」という話を耳にすることが増えました。しかしその一方で、現場では今、新しい種類の仕事が急増しています。
それは、「AIが作ったものを、人間が使える状態に直す」という仕事です。
「AIでロゴを作ったけれど、印刷できる解像度に修正してほしい」
「AI画像の指や服の形がおかしいので手直ししてほしい」
「AIに書かせた文章を、人間が書いたように自然にしてほしい」
AIに仕事を奪われたはずの専門家のもとに、AIの後始末をする依頼が舞い込んでいる――いわば「AI後始末業」とも言える現象が世界中で起きています。一見すると新しい需要が生まれたようにも見えますが、その実情は決して楽なものではありません。
今回は、この「AI後始末」の現場で起きているリアルな問題と、私たちがAIを活用する上で知っておくべき「最後の2割」の価値について考えたいと思います。
世界中で増える「AI修正」の依頼と現場の不全
海外のフリーランス支援サイトの調査によると、募集要項に「AIの修正」「AIのエラー対応」といった言葉が含まれる案件が、ここ1〜2年で大幅に増えているそうです。
スペインで活動するあるグラフィックデザイナーは、以前はロゴやパッケージを1から作る仕事を中心に受けていました。しかし、今では届く依頼の約90%が「AIが生成した画像の修正」に変わったといいます。
一見、需要が戻ってきたようにも思えますが、彼女はこの仕事を断るようになりました。理由は大きく3つあります。
- 「少し直すだけ」と思われ、不当に安く買い叩かれる
- 実際には土台から壊れており、1から作るより時間がかかる
- 元画像の権利関係(著作権侵害など)のリスクを負わされる
依頼する側は「AIで9割方完成しているのだから、15分程度で安く直せるだろう」と考えがちです。しかし、プロの目から見ると、解像度が足りない、線や構造が破綻している、影の方向や服の線がつながらないといった問題が多発しており、実質的には「修正」ではなく「再制作」が必要になります。
文章やイラスト、映像編集の現場でも同様です。あるライターは、AIが生成した書籍や記事の修正業務(ファクトチェックや構成の全改修)が増えた結果、手間ばかりかかって報酬が減り、月収が大きく下がったと話しています。
生産速度が100倍なら、エラーの生産速度も100倍になる
AIは一瞬で100枚の画像や100本の文章を生成してくれます。確かに生成速度は驚異的です。
しかし、生産速度が100倍になれば、そこに含まれる間違いや不自然さの生産速度も100倍になります。
そして、その100個の間違いを1つずつ確認し、事実関係を調べ、修正・検証するのは結局のところ「人間」です。100枚のAI画像を生成するのに数分しかかからなくても、その100枚すべてのアラ探しをして修正する作業は、人間を大量の間違いの中に埋もれさせることになります。
これはシステム開発の世界でもまったく同じことが言えます。
AIにコードを書かせれば、一見すると「動いているように見えるシステム」は一瞬で出来上がります。しかし、それを実際の業務で安全に使うためには、以下のような確認が不可欠です。
- セキュリティ上の抜け穴はないか
- 予期せぬエラー(例外処理)に対応できるか
- データの整合性が保たれているか
- 導入後の保守や修正がスムーズに行えるか
見た目がそれっぽくなった瞬間は、仕事の終わりではありません。むしろ、「本当に現場で使えるものとして責任を持てる状態にする仕事」は、そこから始まるのです。
「最後の2割」に、全体の8割の時間がかかる
よく「AIが全体の8割を作ってくれるから、人間は最後の2割の仕上げをやればいい」と言われます。私自身も業務の効率化において、その方向性自体は間違っていないと考えています。
ただし、誤解してはならないのは、「作業の8割が終わっているからといって、残りの時間が2割で済むとは限らない」ということです。
現実には、世に出せる品質に仕上げるための「最後の2割」に、全体の8割以上の時間と専門知識が注ぎ込まれるケースが多々あります。
- 文章なら: 事実関係の裏付け(ファクトチェック)、文脈の筋道、オリジナリティの付加
- デザインなら: 印刷仕様への適合、権利チェック、ブランドとしての統一感の確保
- システムなら: 運用テスト、例外処理、セキュリティ検証、現場への定着支援
AIが提示する「それっぽい下書き」を過信し、完成品だと勘違いしてしまうと、修正を頼まれた専門家も、発注した企業側も、双方が疲弊する結果になってしまいます。
AI時代において、仕事の価値はどこに残るのか
もし、ビジネスや業務でAIを活用するのであれば、発注側・受注側ともに次のような意識を持つことが大切だと感じています。
発注側(企業・経営者)の視点
「AIでここまで作ったから、残りを安く仕上げてほしい」という発想は危険です。土台が崩れている状態から直そうとすると、最初からプロに依頼するよりも余計にコストや時間がかかる場合があります。
AIで作ったものはあくまで「アイデア出し」や「素材の試作」と割り切り、本制作に入る前にプロの意見を聞くことが、結果として一番の近道になります。
受注側(プロ・専門家)の視点
安易に「修正」という言葉で仕事を引き受けないことが重要です。内容を確認し、実質的に再制作やゼロからの検証が必要であれば、正当な見積もりと作業期間を提示する必要があります。AIが安く出力したからといって、人間が責任を持つための作業価値まで下げる必要はありません。
最後に
AIの登場によって、クリエイターやエンジニアの仕事は「作る人」から「監査・検証し、品質を保証する人」へと役割が変わってきています。
AI時代に人間へ残される「最後の2割」とは、単なる最後の磨き上げではありません。「出来上がったものを世に出し、万が一のことがあっても結果に責任を持つこと」そのものです。
そしてその「責任を持つ作業」こそが、本来最も高い価値を持つ仕事なのだと私は考えています。
自社の業務やIT活用においても、「AIを使えば安く・早くなんでもできる」という表面的な情報に惑わされず、どの部分に人間の判断や責任が必要なのかを見極めながら、地に足のついた活用を進めていきたいものです。
CloudLabは京都・亀岡を拠点に、中小企業のIT活用・AI導入・ホームページ制作を支援しています。お気軽にご相談ください。
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